子どもにとっての実家は、心理的な拠り所としての側面が強くなりがちです。しかし、そこに住む親にとっては、日々の移動や建物の修繕といった生活の継続性が問われる現実の場です。本記事ではAさんの事例とともに、親子間の認識のズレが招く事態と、高齢期の住まいの所有リスクについて、FPオフィスツクル代表・内田英子氏が解説します。※本記事で取り上げている事例は、複数の相談をもとにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から一部脚色を加えて記事化しています。読者の皆さまに役立つ知識や視点をお届けすることを目的としています。個別事例の具体的な取り扱いは、税理士・弁護士・司法書士など専門家にご相談ください。
年金18万円・実家の母を頼りに帰省した43歳リストラ息子…「実家だった場所」にあった“カーテンのない窓”と『売物件』の看板に愕然。老人ホームへ引っ越した「母の事後報告」【FPの助言】
年金月18万円だが、「持ち家」で暮らせない現実
母親にも事情がありました。現在73歳。5歳年上の夫を3年前に亡くし、一人暮らしを続けてきました。年金は月18万円ほど。決して少なくはありませんが、持ち家に一人で住み続けることには、さまざまな困難があったのです。
母親が住んでいたのは人口減少がじわじわと進む地方都市の郊外。ひざが悪くなり、運転ができなくなったことも生活に大きく影響していました。近くのスーパーは車で15分のところにあり、徒歩で通うのは難しく、宅配サービスを利用していました。病院も遠く、リハビリ通院にはタクシーが必要です。タクシーを使えば往復で数千円の出費。週に数回通うだけで、年金が大きく減る感覚がありました。
在宅介護サービスも利用していましたが、ヘルパーが不足しており、担当者との相性が合わなくても変えることができません。我慢して利用を続けるか、サービス自体を諦めるか。半ば諦めながらも不満を抱えていたのです。
そして、とどめとなったのが家の修繕費でした。天井から雨漏りしているのに気づき、業者に見積もりを取ったところ、修繕が必要な箇所が次々とみつかりました。雨漏りに水回りや外壁。築30年を超える家は、あちこちにガタが来ていたのです。修繕には300万円程度かかるといわれました。手元には預貯金が1,000万円ほどありましたが、修繕したとしても、この先この家で本当に暮らし続けられるのか。さらに修繕が必要になったら。医療や介護の費用が増えたら。さまざまな不安が募りました。
一瞬、息子に相談することも頭をよぎりましたが、父親の葬儀以来、連絡はありません。
「相談したところで、どうなるだろうか。迷惑をかけてはいけない。あとから伝えることにしよう」
友人や親戚にも相談しながら悩んだ末、元気なうちに家を売却することに。幸い、住んでいた地域はまだ買い手がつく場所でした。「動くなら、いましかない」と、家を売却。約900万円で売却し、預貯金と合わせて約1,900万円を確保できたのです。この資金を元手に、医療や介護のサポートが受けられる有料老人ホームへの入居を決めました。
施設に移って数ヵ月。Bさんは、医療や介護のサポートを身近に受けられ、タクシー代や修繕費用を気にすることのない日々を送っています。一人で住んでいたときよりも、明るい表情で暮らせています。