定年までに「1億円」を築いた“おひとりさま”会社員

現在無職のタダシさん(仮名・60歳)は、食品メーカーに勤務する会社員でした。年収は約700万円でパートナーはおらず、親から相続した実家で一人暮らしをしています。

徹底した倹約生活を続けてきたタダシさんの総資産は、定年退職金を含めて約1億円にのぼります。退職を機に、投資信託を売却して現金化。振り込まれた入金額と通帳残高の数字を見つめながら、タダシさんは静かに思います。

「ついにここまで来たか……」

もともと、裕福とは言い難い家庭環境で育ったタダシさん。子ども時代に味わった「お金がない不安」が強烈な記憶として残り、社会人になってからは「お金に困らない人生を送ること」を最優先にしてきました。

趣味や交友関係にお金を使うことはほとんどなく、外食も最小限。旅行にも行かず、給与の大半を貯金に回しながら、一部は投資信託などで堅実に運用してきました。

近年の金融市場の上昇も追い風となり、資産は着実に増加、さらに親の相続と退職金によって、1億円の大台に到達したのでした。

1億円の大台に到達して生まれた「思わぬ悩み」

しかし、予想とは裏腹に、1億円の資産を前にタダシさんは安心よりも不安が勝っています。

「ここまで築いた資産を減らすわけにはいかない」

定年後、自由な時間が増えたタダシさんですが、年金受給開始は65歳から。それまでの生活費は、資産を取り崩すしかありません。1億円もあるのですから頭では「問題ない」とわかっていても、残高が減る恐怖になかなか財布の紐を緩める気になれません。

その結果、タダシさんは現役のとき以上に、日々の生活にほとんどお金を使わなくなってしまいました。多くの人が「定年後の夢」として挙げる旅行や趣味はもちろん、食費や光熱費にいたるまで、タダシさんは以前にもまして徹底的に節約するようになったそうです。