Aさんが母の生前準備を“無視”したワケ

父の死から約10年後、ついに最愛の母もこの世を去ってしまいます。Aさんは悲しみをこらえながら、母が決めた葬儀社に連絡して、葬儀の打ち合わせを始めました。

葬儀社の担当者の話では、Bさんが決めていた家族葬のプランは、お通夜から葬儀、初七日の法要までの2日間で会員価格30万円と、確かにお値打ちでした。

しかし、その30万円のプランでは、祭壇に生花の装飾がなく、湯灌も行わないとのこと。Aさんは「それではみすぼらしい。自分が費用を渋ったと思われたくない」と、担当者が提案する内容に変えていきます。その結果、葬儀翌日に届いた請求額は、80万円近くまで膨れ上がったのです。

母の想いに報いればよかった…Aさんの後悔

幸い、Aさんは「預金の仮払い制度(※)」の手続きをしていました。そのため、僧侶へのお布施を含めた葬儀費用は、全額母の預金口座から支払うことができたそうです。

(※)預金の仮払い制度とは……名義人が亡くなり銀行口座が凍結された後、遺産分割協議が成立する前でも、相続人が単独で一定額の預金を引き出せる制度のこと。

「母が亡くなり自分も動揺しているときに、限られた時間で葬儀の内容と費用を冷静に決めるのは至難の業でした。そんな思いをさせたくないと、母は自分の葬式の段取りをしてくれていたのに……母の想いに報いればよかったと悔やんでいます」

Aさんは当時をそう振り返ってくれました。

終活の一環として「自らの葬儀」について考える

Aさんのお母様は、自身の経験をもとにしっかりと準備をしていました。ただ、残された家族はAさんのように、悲しみと混乱のなかで「安っぽい式にしたら可哀想だ」「世間体が悪いのでは」といった心理が働くのも事実です。

だからこそ、単にプランを決めるだけでなく、「なぜそのプランを選んだのか」「派手な式よりも、簡素な式こそが自分にとって一番の供養になる」といった想いを、元気なうちに言葉で伝えておくことが大切でしょう。

牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員