なぜ「契約書のチェック」が重要なのか?
契約書は、単なる形式的な書面ではありません。トラブルが起きたとき、民法などの法律よりも優先される基準になるのが契約書の文言です。「担当者から聞いていた話と違う」「そんな条件は聞いていない」と、契約書の内容を理解してせずサインしたことがトラブルの要因になる例は珍しくありません。
しかし裁判では、口頭でのやりとりよりも契約書に書かれている内容が基本的に優先されます。特に不動産取引では、引き渡し後に雨漏りや設備不具合などが発覚することも多く、そのとき「契約書でどこまで売主が責任を負うのか」によって、損害の有無が決まることも多いです。
つまり、契約書を読むことは「自分の資産を守る防御策」そのものです。わからない用語や内容があれば、そのままにせず、必ず確認する習慣をつけましょう。
チェックポイント1…「手付解除」と「違約金」
売買契約の締結時に支払う「手付金」は、単なる前金ではなく、「契約解除のための“鍵”」です。多くの契約では「買主は手付金を放棄すれば解除できる」「売主は倍返しで解除できる」と定められています。 ただし、これは“一定の期限まで”という前提付きです。「契約日から◯日以内」など期限が設けられていたり、「履行の着手」と呼ばれる決済直前の準備段階を過ぎたりすると解除できません。
その後にやめたくなった場合は「違約解除」となり、違約金(通常は売買価格の10〜20%)を支払う必要があります。この金額設定が過大だと民法上の「公序良俗違反」として無効になることもありますが、裁判上も実務上も10~20%前後の設定が多いです。
誤解されることも多いのですが、売買契約の締結は単なる形式的な準備や作業ではなく、すでに大きな法的関係に入っていく重要な法律行為です。 ここでチェックすべきは2点です。一つは手付解除ができる期限はいつまでか、もう一つは違約金の割合が相場(10~20%前後)に収まっているかどうかです。
チェックポイント2…「ローン特約」の期限
ローンを利用して購入する人にとって、ローン特約は命綱です。もし金融機関の審査が通らなければ、契約を「白紙撤回」できる救済措置です。
ただし、注意すべきは「融資承認期限」。たとえば「○月○日までに承認を得られなければ解除できる」とある場合、その日を1日でも過ぎれば、契約解除が認められなくなるおそれがあります。また、特定の銀行名を指定している契約では、他の銀行に勝手に切り替えた場合は特約の対象外になることもあります。「どの金融機関が対象か」「承認書の提出期限」「不承認の扱い」など、細部を確認しましょう。
現場でよくあるトラブル例としては、「銀行審査が遅れ、期限内に承認が下りず解除不能になる」、「『特定の銀行」と限定され、別銀行の否認では特約が使えない」などが挙げられます。契約前に、融資担当者と営業担当、双方にスケジュールを確認しておくことが重要です。
チェックポイント3…「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」
購入後に「雨漏り」「シロアリ」「排水管の腐食」などが見つかったとき、売主がどこまで責任を負うかを定めるのが「契約不適合責任」です。最近の契約では、「売主は一切責任を負わない」とする免責条項が入っているケースが多く見られます。特に個人の売主から中古物件を購入する場合、“現状有姿”での売買として完全免責が一般的です。
一方、宅建業者が売主の場合は、宅地建物取引業法によって、引き渡しから2年以上の責任期間を設けることが義務づけられています。仮に、契約不適合責任が免責される場合には、「不具合があっても修繕等を要求できない前提で、この価格なんだ」と理解して購入することが大事です。
したがって、確認すべきは、「契約不適合責任が免責されていないか」、「責任期間がいつまでか」、「対象が構造部分のみなど、限定されていないか」の3点です。この条項を見落とすと、欠陥が見つかっても修補・損害賠償を求められない場合があります。契約不適合責任が免責される場合には、「不具合があってもこの価格」で納得できるかどうかを確認しましょう。
チェックポイント4…「公租公課の精算」
「固定資産税」「都市計画税」などの公租公課は、原則として1月1日時点の所有者に課税されます。しかし、売買契約では通常、引渡し日または決済日を基準に按分計算します。この「起算日」を勘違いすると、税負担や収入の帰属で思わぬ誤算が生じます。特に「オーナーチェンジ物件(賃貸中物件)」では、家賃収入がどの月分まで売主に帰属するかを必ず確認しましょう。
チェックポイント5…「引渡し日」
「引渡し日」が明確でない契約は危険です。「○月中旬頃」や「工事完了後」など曖昧な表現では、トラブルの元になります。引渡しの具体的な日付や条件が明記されているか、そして遅延した場合の補償(遅延損害金や解除権)まで確認しましょう。
まとめ
不動産売買契約書は、専門用語が多く、つい不動産会社任せにしがちです。しかし、一度サインしてしまえば「知らなかった」では済みません。手付解除・ローン特約・契約不適合責任・公租公課・引渡し日の5項目は、どれもトラブル時に大きな意味を持ちます。不安があれば、サイン前に弁護士や専門家にチェックを依頼すること、トラブルが生じそうなら早めに専門家に相談することが、後悔しない不動産取引への第一歩です。
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山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
