65歳より前に年金を受け取ることができる「年金繰上げ受給」。老齢厚生年金の受給権者の利用はわずか0.9%にとどまります(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報(令和5年度)」より※65歳前の特別支給の老齢厚生年金の受給権者を除く)。今後利用者の増加が見込まれる年金繰上げ受給について、60歳男性の事例をもとに、制度のしくみと注意点をみていきましょう。
年金月17万円が月13万円に…利用率0.9%の〈年金繰上げ受給〉を選んだ60歳サラリーマン「まったく後悔していません」と強気だが【社労士CFPの懸念】
年金の「総受給額」が逆転する年齢は?
なお、65歳から年金を受け取り始めた場合と、5年繰り上げて60歳0ヵ月から受け取り始めた場合では、生涯受給額が同じになるのは80歳10ヵ月頃とされています。つまり、それより長生きすればするほど、65歳開始のほうが累計額は多くなるという仕組みです。
「80歳10ヵ月っていうと、男性の平均寿命くらいでしょう? しかも、健康寿命はそのもっと前の70代前半。それを考えると、やっぱり早めに年金をもらいはじめたほうが得だと思ったんです」
Aさんはそう語ります。
Aさんが気づいていない「繰上げ受給」の盲点
年金の繰上げ受給は、Aさんが言う「自分の年金を元気なうちに自由に使える」点のほか、急な出費が必要になった際に繰上げ分を生活費に充てられるなど、いくつかのメリットがあります。
とはいえ、繰上げ受給には注意すべき点が少なくありません。
まず、もしもAさんが65歳より前に退職して失業給付(基本手当)を受給する場合、その期間は繰り上げた老齢厚生年金を受け取ることができません(老齢基礎年金は受給可能)。
また、「障害年金」を請求できない可能性もあります。病気やケガで障害が残った場合、障害年金のほうが繰り上げた老齢年金より高額になるケースもありますが、繰上げ受給をしているとその障害年金を受給できなくなることがあるのです。
さらに、「遺族厚生年金」が発生した場合も注意が必要です。65歳までは、老齢年金と遺族厚生年金のどちらか一方しか受給できません。
妻のBさんは厚生年金に加入して働いていた期間があるため、もしBさんが先に亡くなれば、Aさんには遺族厚生年金の受給権が生じます。その場合、65歳まで「遺族厚生年金」または「繰上げした老齢年金」のいずれかは受け取ることができません。
いまのところ、こうした事態はAさんの身に起こっていません。しかし、65歳より前に失業・障害・配偶者の死亡といった状況になれば、本来受け取れたはずの年金を受け取ることができなくなる、または繰り上げた老齢年金が受給できなくなる可能性があるのです。
加えて、一度繰上げ受給を開始すると、あとで取り消すことはできません。
