「銀行は信用できない。お金を保管するなら家が一番安全だ」と信じて疑わない正田信二さん(72歳・仮名)は、老後資金の5,800万円の札束を家中に保管していました。ところが、近年の物価上昇で、同じ金額でも買えるものが確実に減っているという事実。危機感を覚え始めていました。今回はFPの青山創星氏が、お金の本質的な役割と、その価値を守る方法を解説します。
銀行は信用できません…資産5,800万円、大量の札束が隠された納戸・仏間の床下・押入れ。「タンス預金が一番だ」72歳男性の思い込みを一変させた〈衝撃の事実〉【FPの解説】
正田さんの決断と新しい生活
この会話の後、正田さんはよく考えた上で行動に移しました。
まず、5,800万円のうち5,000万円を複数の銀行に預けることに。預金保険制度(破綻しても保護される)の範囲内で、1行あたり1,000万円を超えないように注意しました。
そして残りの800万円のうち、300万円は生活防衛資金として一番近い銀行の普通預金に置き、500万円を長期投資に回すことにしたといいます。
「妻にも話したら『ああ、よかった。私はずっと家に大金を置いているなんて嫌だったのよ!』って。最近は一緒に資産管理を考えてくれています。もちろん物価上昇が続いたら困りますが、少なくとも『できる範囲で手は打っている』という安心感があります」
と正田さんは表情を明るくします。
老後資金を守り、育てる賢い資産管理術
正田さんの体験から学ぶ、現金主義・タンス預金の落とし穴を避け、老後資金を効率的に管理するためのポイントをまとめます。
1. 物価上昇リスクの認識
現金の数字は変わらなくても、実質価値は年々目減りしている現実を受け入れる
2. 物理的リスクへの警戒
盗難、火災、自然災害など、タンス預金が抱える物理的危険性を軽視しない
3. 分散投資の実践
全資産をひとつの方法で管理せず、現金・預金・投資信託などに分散してリスクを軽減
4. 長期投資の活用
10年以上の投資期間があれば、株式投資の価格変動リスクは大幅に軽減される
5. 安全性の確保
老後生活者は生活に必要な資金は預金等で確保し、余裕資金のみを投資に回す
6. 専門家への相談
ファイナンシャルプランナーなどに相談し、個人の状況に応じた最適なポートフォリオを構築
7. 相続対策の重要性
家族に資産状況を伝え、相続時のトラブルを防ぐ準備をしておく
正田さんのような「安全第一」の考え方は決して間違いではありません。しかし、時代の変化とともに、「安全」の定義も変わっています。真の安全とは、単に数字を減らさないことではなく、将来にわたって必要な購買力を維持し続けることなのです。
※1:「消費者物価指数 総合指数(前年同月比)」2025年10月分 総務省統計局
※2:「特設サイト 住まいる防犯110番」令和6年 警察庁
※3: iシェアーズ 米国株式(S&P500)インデックスファンド
ファイナンシャルプランナー
青山創星