見えないリスクが襲いかかる…盗難・災害・相続問題

このまま現金で持っていていいのだろうか?――そう悩んだ正田さんは、市主催の金融セミナーで出会ったファイナンシャルプランナーの永瀬財也さん(仮名)に相談しました。

「正田さんのような方は多いのですが、現金の価値は『物価上昇』によって実質的に目減りしているんです。日本銀行が目標とする年間2%のインフレが実現すれば、10年後には現在の5,800万円の価値は約4,700万円相当になってしまいます」

さらに深刻なのは、近年のインフレ加速です。エネルギー価格の高騰、円安の影響により、生活必需品の多くが年間3~4%程度(※1)のペースで上昇しています。

永瀬さんは正田さんにもうひとつの重要なリスクを指摘しました。

「現金を家で保管することの物理的なリスクを、真剣に考えたことはありますか?」

正田さんは「うちのような普通の家にまで、泥棒が入ることはない」と考えていましたが、現実は違います。2024年に全国で確認された侵入窃盗(住宅対象)の認知件数は約1万6,000件にのぼっています(※2)。また、自然災害の多い日本では火事のリスクも見過ごせません。火災保険で家屋は補償されても、現金は対象外です。

「相続にも無関係ではありません」と、永瀬さんはさらに続けます。

「お子さんが把握しきれないような保管の仕方をしていた場合、現金が相続財産として申告されず、“なかったこと”にされてしまう。あとから発覚すれば、税務署から申告漏れを指摘され、思わぬ税負担が生じる可能性があります」

衝撃の事実…10年前に1,000万円投資していたら、いま4,600万円に?

さらに、永瀬さんは正田さんに衝撃的なデータを見せました。

「もし10年前に1,000万円だけでも米国株式市場に投資していたら、どうなっていたと思いますか?」

S&P500連動の投資信託(※3)のデータを見ると、2014年に1,000万円を預けていた場合、2024年には約4,600万円に成長していた計算に。なんと10年で約4.6倍です。

「でも、投資は危険。大損することもあるから」――そう眉をひそめる正田さんに、「その考えは、確かに一理ありますよ。元本保証ではありませんし、先ほどのデータもあくまで結果論です。ただ、先ほどもお伝えしたとおり現金で持っていても実質的に目減りする時代です。投資といっても、短期売買ではなく長期投資ならばリスクは軽減されます」と永瀬さんは説明します。

「でも、だからといってすべてを投資してはいけません。5,800万円のうち余裕をもって生活するために必要な金額が仮に4,800万円であれば、残りの1,000万円を分散投資に回す。分散投資でも心配なら、預金や国債にするだけでも、タンス預金よりははるかに安全です」