心配が現実に。還暦祝いで帰省し「真実」に激震

管理職として忙しくしていたAさんも、もうすぐ定年退職。「あと5年もすると、父親と同じ年金生活なのか」と考えると、少しは年金のことも知っておかないといけないと思い、会社の福利厚生事業で話を聞くことにしました。

Aさんは、大学卒業からずっと会社員であるため、厚生年金保険の加入期間が長く、管理職で給与が高い期間もありました。

「会社員だと上乗せがあるから、自営業に比べると年金額が高いのか……。老後の不安が軽くなってよかった」

そう安堵したのもつかの間、ある事実に思い至ります。

「まてよ、親父は自営業が長かったような……。電話では『年金で十分暮らせている』といっていたが、本当なんだろうか」

自分の年金額に安心しつつ、父親の年金額を聞いたこともなかったAさん。自身の定年退職祝いと称し、久しぶりに帰省することにしました。

実家でみた久しぶりの父親は、膝を悪くし、部屋の中でも手押し車を使いながらの生活でした。家の中の歩行もヨタヨタしています。

「食料品の買い物等はどうしているのだろうか?」

気になり冷蔵庫を開けてみると……Aさんは思わず二度見しました。中身は空っぽ。そもそも、冷蔵庫のスイッチがはいっていなかったのです。

Aさんは冷蔵庫の前に立ちすくみ、激しいショックを受けました。

父がついていた「嘘」と、目の前の「真実」

父は個人事業主の期間が長く、そのあいだの国民年金保険料には未納期間がありました。蓋を開けてみれば、年金額は約70万円、月額にしてわずか5万8,000円です。小さな自宅は持ち家でローンもないため、修繕等を気にしなければなんとか暮らせます。しかし、昨今の物価高の影響と、身体の衰えから買い物もままならず、冷蔵庫のあるものも尽きてしまったようです。

「年金で十分暮らしている」という父の言葉は、息子に心配させたくない親心からの嘘でした。

高齢期のおひとりさまが増えていますが、孤独死しないためにも、元気なうちから万一のリスクに備えておく必要があります。内閣府の令和6年版高齢社会白書(全体版)でも、65歳以上の人がいる世帯は全世帯の約半数、65歳以上の人の一人暮らしは全体の3割を超え、増加傾向となっています。

その後、Aさんはすぐに介護認定を申請しました。「都会で暮らしたくない」という父の希望を尊重しつつ、施設の入居を含めて検討し、これからは父とコミュニケーションを密にすることを心がけています。

〈参照〉

警察庁:警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者(令和6年)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/shitai/hitorigurashi/R6nennreikaisoubetu.pdf

内閣府:令和6年版高齢社会白書(全体版)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_1_3.html

三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表