内閣府「令和7年度高齢社会白書」によると、65歳以上の人がいる世帯は49.5%で、そのうちの20.2%は「親と未婚の子のみの世帯」でした。高齢の親と成人した子が同居している世帯では、介護やお金を巡ってさまざまな思惑が複雑に絡み合い、親子関係に亀裂を生むケースがあるようです。とある親子の事例を通して、同居する親子に生まれやすい“思わぬトラブルの種”と、その対策・予防策をみていきましょう。牧野寿和CFPが解説します。
結婚!? 聞いてないぞ…〈年金月28万円見込〉60代夫婦、同居中の41歳息子が打ち明けた「喜びの報告」を“心から祝えない”ワケ
息子がいるから大丈夫…60代夫婦の油断
息子「俺、結婚しようと思うんだ。彼女に会ってもらいたいんだけど、今度の日曜日は空いてる?」
父「そ、そうか、そうか! おめでとう(結婚!? おいおい聞いてないぞ……)」
母「よかったわね、お相手はどんな人?(どうしましょう……)」
1年前に定年退職して現在無職のAさん(66歳)と、専業主婦の妻Bさん(61歳)。ふたりは、東京都内の戸建て(住宅ローン完済)に、ひとり息子のCさん(41歳)と住んでいました。
大手商社に勤めるCさんは、頻繁に出張が入るため家を空けることも多く、「家を借りるよりも実家のほうが効率的」「いずれは家を出るから」と言い、かれこれ10年近く両親と同居していました。
Cさんは「家賃分」として、律儀に毎月5万円ずつ親に渡しています。また休みには、自分の車に母親を乗せて食料品などの買い出しに付き合い、その支払いもしてくれていました。
そんなCさんから、夫婦は諦めかけていた「喜びの報告」を聞き、驚愕します。
愛するわが子の結婚ですから、もちろんうれしい……しかし、決して“手放しでは喜べない”身勝手な事情があったのでした。
実はAB夫妻、Cさんが老後の面倒を見てくれると油断していたのです。
そのため「息子が結婚して家を出るとこれまでのような援助がなくなる……自分たちの生活は大丈夫なのか?」と、喜びよりも不安が勝ってしまったのでした。
援助をあてにした資金計画の危うさ
AB夫妻は本来、Aさんが65歳から老齢厚生年金を月約19万円受給、70歳からは、ふたりで月に約25万円受給する見込みでした。
しかし夫婦は「息子がいるから大丈夫」とCさんの援助をあてにして、Aさんの老齢基礎年金のみを、70歳まで繰り下げている最中だったのです(※)。
(※)老齢基礎年金だけを繰り下げた理由は、老齢厚生年金を繰り下げると、Bさんが65歳になるまで受給できる加給年金が支給停止となるため。
これにより、Aさんが70歳になってからは、ふたりで月に約28万円の年金を受給できる見込みでした。
そのため、たまに貯蓄を取崩すことがあっても、深刻に考えることなく過ごしていたといいます。
しかし、Cさんが家を出ることにより、家計が破産するかもしれないと心配になったのです。