共働きが一般的になり、老後の年金額は夫婦で30万円前後という世帯も少なくありません。しかし、配偶者が亡くなった結果「遺族年金が支給されない」という事態に直面し、一気に困窮するケースも……。今回紹介する宮内さん(67歳)も、そんな“想定外”に遭遇したうちのひとりです。宮内さんのケースをもとに、見落とされがちな「遺族年金の調整ルール」をみていきましょう。
なにかの間違いでは…ヒートショックで夫を亡くした貯金1,500万円の67歳妻、年金事務所で知った「遺族年金の盲点」に涙【CFPの助言】
遺族厚生年金の落とし穴
遺族年金には、大きく分けて「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。
「遺族基礎年金」は、国民年金に加入していた人が亡くなった場合に支給される制度です。ただし、子どもがすでに成人している高齢世帯では、遺族基礎年金は対象外となり、実際には「遺族厚生年金」だけが対象となることが多いです。
一方「遺族厚生年金」は、故人が加入していた厚生年金の報酬額や加入期間に基づいて計算されます。基本的な計算式は次のとおりです。
【遺族厚生年金の計算式】
(1)加入月数が300ヵ月未満の場合:平均標準報酬額×5.481/1,000×300×3/4
(2)加入月数が300ヵ月以上の場合:平均標準報酬額×5.481/1,000×加入月数×3/4
また、老齢厚生年金をすでに受給していた人が亡くなった場合は、次のうち高いほうの金額が支給されます。
・故人の老齢厚生年金の3/4の金額
・「故人の老齢厚生年金額の1/2の金額」と「配偶者の老齢厚生年金額の1/2分の金額」を合算した金額
ただし、「老齢厚生年金の額に相当する部分」は支給停止となる仕組みになっています。このように、遺族厚生年金は本人の年金額との「調整」によって支給額が変わるのです。
宮内夫妻のように、それぞれが正社員として働き、老齢厚生年金の金額がほぼ同額である場合、調整の結果として遺族年金の受給資格が発生しないことがあります。
つまり「遺族厚生年金=自動的にもらえるもの」ではなく、配偶者の年金額との兼ね合いによって「差額だけ」あるいは「ゼロ」になるケースがあるのです。
“想定外”を防ぐには
遺族年金の制度は複雑で、誤解されやすい部分が多い仕組みです。したがって、配偶者が亡くなった際、どの種類の年金が受け取れるのか、どの程度の金額になるのかを事前にシミュレーションしておくことが大切です。
特に共働き世帯では、今回のように「遺族年金が支給されない」ケースも少なくありません。
老後の生活資金を考えるうえで、自分の年金収入のみでも成り立つ家計設計を構築しておくことが、リスク回避につながるでしょう。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP