娘が気づけなかった父の深刻な変化

ただ、その頃の父は以前より物忘れが増え、支出や返済期日を正確に把握できていなかったのかもしれません。通帳には記帳の跡が残っていましたが、残高の変化を細かく確認することはなく、支払いの多くを自動引き落としに任せていたようです。

認知機能の低下も、こうした金銭管理の甘さにつながった要因のひとつだったのかもしれません。

気づけば、退職金は静かに減り続け、亡くなる直前にはほとんど残っていない状態になっていました。大きな浪費ではなく「日常の少しの赤字が積み重なった結果」が、父の退職金を消してしまった真の理由だったのです。

親子でできる「お金の見える化」

高齢になると、加齢にともなって判断力や記憶力が低下し、金銭管理が難しくなっていきます。年金が支給されるとすぐに使い切ってしまったり、生活費を確保しないまま欲しいものを買ったりしてしまうケースも少なくありません。

その結果、知らないうちに資産が枯渇し、最悪の場合は老後破綻に陥るケースもあります。

実際、日本弁護士連合会「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、破産債務者の約3人に1人が60歳以上という結果が明らかになっています。具体的には60代が約17%、70代が約12%を占めており、高齢者の経済的困窮が深刻な社会問題となっているようです。

今回の事例のような事態を防ぐためには、親が元気なうちに通帳や収支の流れを家族で共有しておくことが大切です。

親以外の第三者もきちんと把握しておくことで、早い段階で異常な支出や不明な引き落としに気づくことができます。

遺される家族のためにも、親が元気なうちから財産の状況を共有し、支出内容を一緒に確認しておく。それが、家族全員にとっての安心につながるのです。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP