「人に頼まず自分でやれば安く済む」。もちろん、それは事実ですし、悪いことではありません。ですが、その裏で消費されている「見えないコスト」を意識することも必要と語るのは、ニューヨーク在住23年目のファッション/テクニカルデザイナー・あっち氏。本稿ではあっち氏の著書『ニューヨークとファッションの世界で学んだ 「ありのままを好きになる」自信の磨き方』(KADOKAWA)より一部抜粋・再編集し、生活にかかるコストの考え方をご紹介します。
「丁寧な家事は愛情の証」「自分でやれば安く済む」間違いではないが…その裏に潜む「見えざるコスト」の存在
“自分でやれば安く済む“の裏にある「見えないコスト」
印象的だったのは、「タイル事件」です。
私が一軒目に購入した物件のキッチンをリノベーションしていたときのこと。工事に使用するタイルをショールームでオーダーしたのですが、タイルの在庫はブルックリンの外れの倉庫にありました。このタイルを倉庫から自宅まで届けてもらうと、配送料は180ドル(当時のレートで約2万円弱)。
対してZipcar(会員制のカーシェアサービス)を借りて取りに行けば2時間で約40ドル。つまり140ドルもおトクです。幸い倉庫は車で行けばさしたる距離ではなかったため、私は車を借りて、自力でタイルを取りに行くことにしました。そして彼にも「手伝って」と声をかけたのです。
けれど彼は、なんだか朝からごきげん斜め。不審に思いながらも、店頭で受け取ったタイルを車に詰め込み、私のアパートまで帰ってきました。なんとか車からタイルを降ろし、部屋に運ぼうとしたそのとき、彼が急に声を荒げてこう言ったのです。
「なんでそこまで自分でやるの? その時間の価値って考えたことある?」──結果的に、マンションのドアマンにチップを払い、タイルの運搬をお願いすることになりました。
この出来事は、私にとってひとつの転機となりました。当初は配送料とレンタカー代を天秤にかけ、安いほうを選んだわけですが、実際には自分が費やした時間、体力、考えるエネルギー、それらすべてが「見えないコスト」だったのです。
この一件以来、「自分でやれば安く済む」という思い込みを手放すようになりました。“Money is a great servant but is not a great master.” ──直訳すれば「お金は優れた召使いで、あなたの主人ではない」、つまり、「お金のために働く」「お金のために我慢する」のではなく、自分の人生を豊かにする道具として、お金はうまく使うべきだという考えです。
“Life is too short to eat bad food.” (人生は有限なのだから、まずい食べ物で我慢するな)
限られた人生、「努力」や「気合い」で頑張るよりも、お金も時間も、自分の味方にできるような使い方をしたい。そんな風に考えながら、今日も心地よい暮らし方を探しています。
あっち