事例に潜む“親子共倒れ”の危険性

今回紹介した事例のような「親による成人の子への支援」は、子どもの生活再建に寄与しないまま長期化するケースも多く、親の老後資金が枯渇するという深刻な問題に発展しかねません。

特に年金生活者にとって、毎月数万円の援助は積み重なると大きな負担です。親子が無理なく向き合うための対策として、下記の4つが考えられます。

1.支援の「期間と目的」を明確にする

「半年間だけ」「再就職が決まるまで」など、支援の期限をあらかじめ設定することが有効です。その場の感情に流されて支援を続けてしまうと、時間の経過とともに親子関係にも歪みが生じる可能性があります。

2.家計を“共同”で可視化する

支援するからには、収支の内訳を明確にしてもらうことは決して理不尽なことではありません。最低限「支援金の使い道を報告してもらう」などのルールを設けることで、家計管理の弱点や支出の無駄が見えてくることもあります。

3.行政・専門家の支援を活用する

「生活困窮者自立支援制度」や「社会福祉協議会の貸付制度」、「地域の家計相談窓口」など、公的支援は意外と多く存在します。家族だからといって親がすべてを抱え込むのではなく、専門機関と連携して再建をサポートする視点も重要です。

4.自分たちの老後資金を守るための「シミュレーション」を行う

必要な資金額は、それぞれの生活スタイルや健康状態などにより異なります。そこでたとえば、夫婦2人で元気に100歳まで暮らす場合を想定した年数分の資金を試算してみましょう。なお、病気や介護に備える資金は別途確保しておきたいところです。

親として、「支援に使えるお金の上限額」を具体的に決めておくことが、自分たちの生活を守る第一歩となります。

「親子共倒れ」を避ける“最後の教育”

親として、子の生活の安定を願い、支援したいと思う気持ちは自然でしょう。

ただし、親の老後を犠牲にした援助は、長引けば「親子共倒れ」になりかねません。支援の線引きを明確にし、「お金の問題を親子で話し合える関係性」を築くことが重要です。

そして、自分自身の老後生活を守ることは、決して“冷たい”選択ではありません。むしろ子どもにとっても、その先を見据えた「人生と向き合う」最後の教育になり得るのです。

大竹 麻佐子
ゆめプランニング 代表
ファイナンシャルプランナー(CFP)
相続診断士