多くの人にとって「人生でもっとも高額な買い物」となるマイホーム。そのため、購入にあたっては「あらゆるリスク」を排除しておきたいところ。ただ、購入前の想定通りにものごとが進むとは限りません。大切なのは、想定外が起きた際の「備え」でしょう。7年前に自宅を任意売却(※)した、とある夫婦の事例から、住宅購入にあたって注意すべき点とその後の対策をみていきましょう。※任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になった場合に、金融機関(債権者)の同意を得て不動産を売却する方法のこと。
もう無理よ…世帯年収900万円の30代新婚夫婦、ハウスメーカー営業マンが「お買い得」と熱弁する〈庭付きの家〉を購入→2年も経たずに「任意売却」を迫られたワケ【CFPの助言】
念願のマイホームを「任意売却」したワケ
新婚当時、当時32歳のAさんと30歳のBさんの世帯年収は約900万円で、勤務先の中間に位置する家賃10万円の賃貸アパートに住んでいました。
ある休日のドライブ中、住宅展示場を発見した2人はその展示場に立ち寄りました。そこでハウスメーカーの営業マンCさんから声をかけられ、“お買い得”とされる新築の庭付き建売住宅を紹介されます。
実は、毎月家賃を支払うよりも資産として持ち家を買いたいと考えていた2人、Cさんの熱心なセールストークもあり、思い切ってBさんの職場近くの物件を購入しました。
当初、戸建て住宅の住み心地は快適そのものでした。
Aさんは「勢いで買った部分は否めないが、自分たちの選択は間違っていなかった」と、自分に言い聞かせるように周囲に話していたそうです。しかし……。
入居から半年も経つと、Aさんは毎朝75分の満員電車での長距離通勤に疲弊し始めます。さらにそこから1年後、子どもの誕生を機に家計をシミュレーションしたところ、住宅ローンの返済が家計を圧迫していることに気づきました。
購入時には知らなかった「返済負担率」を計算すると34%と、銀行の融資基準(30~35%)は満たしていても、実際の返済は厳しい水準です。
「このままでは返済が続けられないかもしれない……」
不安を抱えた夫婦は、住宅ローンを借りているD銀行に相談し、解決策を模索することに。
D銀行の担当者は
1.借入期間の延長
2.一定期間の返済額軽減
3.元本返済の据え置き(一定期間は金利のみ支払い)
という3つの対応策を提案してくれました。
しかしAさんは、そもそも収入が不足している状況では、返済額の軽減や先送りは根本的な解決にならないと考えます。
しばらく考え込んだ後、Aさんは自宅の売却が可能か尋ねました。担当者によると、物件にはD銀行の抵当権が設定されているため、売却には抵当権の抹消が必要となるものの、任意売却なら競売よりも市場価格に近い価格で売却でき、条件や引越し時期の交渉も可能だと説明されました。
すると、Bさんが静かに「もう無理よ。この家は売って、賃貸に戻りましょう」と提案。Aさんも任意売却を決意し、D銀行にその意向を伝えました。