老人ホームへの入居で家族との関係も好転

ある80代の女性と長男さんがふたりで暮らす世帯では、毎日毎日怒鳴り合いが続いていました。近所から、虐待では? と地域包括支援センターに通報されるほどでした。

老人ホームに入居されてからは、程よい距離感をとることができ、毎週末楽しそうに面会されています。施設入居後にご家族から、

「顔色がよくなって安心しました」
「入居してからほどよい距離感で、逆に関係がよくなりました」
「こんなに快適な生活で、200歳まで生きてしまいそうです」

といった、うれしい声をお聞きすることがよくあります。

入居される方自身も、老人ホームでの暮らしを楽しまれています。たとえば「施設になんか死んでも入らん!」と怒鳴り散らしていた男性は、

「今日はカラオケだ」
「来週は出前でラーメンをとる」
「チラシのゴミ箱作りが忙しくてな」

と、他の誰よりも楽しそうに、イキイキと老人ホームで暮らしています。

このように、入居=かわいそうという考え方はもう古いです。老人ホームに入居することは暮らしの拠点が変わるだけであり、ご家族との関係性は変わらないのです。

「家に帰りたい」が口癖の90代の女性は、職員がどんなに工夫して関わっても落ち着きませんでした。口を開けば「帰る、帰る」です。試行錯誤の結果、ご家族にお願いして、長年ご自宅で使いなれたタンス、座り慣れたいす、古い姿見を持ってきていただき、可能な限り自宅を再現しました。

ある日、お部屋に伺うと「いらっしゃい」と自宅のように招き入れてくれました。心の中で小さなガッツポーズをした瞬間です。長年暮らした自宅の環境に近づけることで、安心して生活できるようになったのです。

老人ホームでの生活を「ここは天国」と話してくださる方も意外と多いです。老人ホームはもはや「姥捨て山」ではなく、暮らしの拠点が変わるだけの新しい住まいなのです。

のぶ
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員