50代というと、会社員であれば一般的に最も所得が増える時期でしょう。 所得が増え、「これで老後も安心」と思っていても、“老後破産の危機”は潜んでいるもの。そこで、ファイナンシャルプランナーが実際に相談を受けた2人の“おひとりさま”の事例を通して、50代の資産形成の必要性とその手法を紹介します。
みんなが「資産形成」をはじめたきっかけ…給与は十分「なにも心配いらない」と過信していた50代“おひとりさま”の事例【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

タイプの違う2人の「共通点」

 

Aさんの貯蓄が200万円と少ないのは「収入があるからなんとかなる」という過信が根底にあります。

 

しかし、このまま漠然と生活を続けて「定年後も現状維持の生活を続けたい」と思っても、公的年金と退職金だけでは到底足りません。

 

一方のBさんは、貯蓄は十分にあるものの預金に偏りすぎており、インフレリスクや長寿リスクへの備えが不十分でした。そんなBさんにも、実は「貯蓄がこんなにあるのだから大丈夫だろう」という思い込みが隠れています。

 

2人に共通するのは、「今は問題ない(から現状のままでよい)」という意識と、50代になるまで自身の老後を具体的にイメージするきっかけがなかったことです。

 

どちらも「このままでよいのか」と立ち止まったタイミングが50代であった点は、興味深いところです。

 

老後資産をつくるにあたっては、「資産運用」の検討が不可欠です。そこで筆者は2人に対し、それぞれ下記のように具体的な資産運用の方法について提案を行いました。

 

Aさん…「iDeCo」への加入+NISAを活用した投資信託

まずAさんに対しては、支出の見直しを行うとともに、企業型DCとは別にiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入することを提案しました。

 

企業型DCの「マッチング拠出」では、企業拠出額を上回ることができません。この点、iDeCoなら自分の判断で拠出額を自由に設定できるため、より積極的な資産形成が可能です。iDeCoでの最低拠出額は5,000円ですが、Aさんの資産状況やライフプランを鑑み、2万円をおすすめしました。

※ マッチング拠出……企業型DCにおいて、会社が拠出する掛金に加えて、加入者本人が掛金を上乗せして拠出するしくみ。

 

また、Aさんは投資に前向きな性格であることを踏まえ、NISAを活用した投資信託も始めることに。老後資金が「いくら必要か」を可視化することで、危機感を持って取り組めるようになりました。

 

Bさん…「個人向け国債」や「バランス型投資信託」への分散投資

貯蓄が1,000万円ほどあるBさんに対しては、まずこの貯蓄を年率0%・3%・5%・7%で運用した場合と、10年間運用せず現金のまま保有した場合の資産推移をそれぞれ試算しました。

 

1,000万円を3%で10年運用すれば約1,344万円に、5%なら約1,629万円に、7%であれば約1,967万円となる一方、運用しなければ1,000万円のままです。

 

世界でも最大規模の機関投資家とされるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)でも、長期平均で年率約4%台のリターンを確保しています。資産運用はリスクがあって怖いと思うかもしれませんが、適切な運用を行えば誰にでも取り組める方法です。

 

そして、現預金の一部を「個人向け国債」や「バランス型投資信託」へ分散投資することを提案しました。

 

個人向け国債は、原則として個人のみが購入できる国債です。証券会社や銀行、郵便局などの金融機関で購入でき、満期を迎えると最初に提供したお金(元本)が目減りすることなく戻ってきます。また、半年ごとに利子を受け取ることができます。

 

少額から購入できるので初めての資産運用でも取り組みやすい点と、保有1年を経過すると、いつでも国が元本保証で買い取ってくれるという安心感が、Bさんの決断のきっかけとなりました。

 

個人向け国債には、半年ごとに適用利率が変わる変動金利型の「変動10年」と、発行時の利率が満期まで変わらない固定金利型の「固定5年」「固定3年」の3タイプがあります。このうち、Bさんは今後の金利上昇への期待も込めて「変動10年」を選択しました。

 

また、現在は実家で親と同居しているBさんですが、介護施設に入れることを検討しており、「将来的に実家の売却が可能かどうか聞きたい」とのこと。

 

これについては、売却だけでなく賃貸活用の可能性も視野に入れながら、親が元気なうちに相続や後見制度について検討を始めるようアドバイスしました。

 

リスクを抑えつつも、現金資産の価値を守る取り組みが重要です。