ランチは10分で済ませ、残りの時間は仕事や勉強に充てる。そんな「タイムパフォーマンス」を重視する生き方が、現代の日本では一つの正解とされています。しかし、その効率化の先で、私たちは何か大切なものを見失ってはいないでしょうか。本記事では、53歳で単身スペイン留学したRita氏の著書『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版)より、スペインの多幸感溢れる食文化をご紹介します。
17時と21時の夕食
17時~19時には、軽食タイム。日本で言う、おやつに近い感覚ですが、大人も子どもも当たり前のように楽しみます。トーストや小皿、コーヒーやジュースを手に、再び小さな社交の輪が生まれる。この時間があることで、夕食が遅くても無理なく乗りきれるのです。
夕食は21時以降というのが一般的。最初の頃は「今すぐ何か食べないと倒れる!」という空腹との真剣勝負でした。スーパーで買ったビスケットをこっそりかじりながら、「これって前菜ってことでいい?」と自分に言い訳していたのを思い出します。でも、不思議なもので徐々に慣れ、むしろ、この時間に食事をすることの利点が、少しずつ見えてきました。
日中の慌ただしさが落ち着いた夜、街の空気がやわらかくなる頃、家族や友人と改めて向き合う時間が持てる。日没が遅く、ようやく食卓に小さな灯りがともる中で1日を静かに振り返る時間は、心のリズムまでも整い、明日への力になります。
この時間の料理は軽めが多く、トルティージャ(スペイン風オムレツ)や生ハムをつまみながら、お酒を傾け、1日の余韻を味わいます。この1日5食のスタイルは、単に回数が多いという話ではなく、「1日5回、誰かとつながる時間を持つ」という視点が根底にあります。
スペインでは「食べること=幸せの時間」として、あまりにも自然に受け止められています。「太るかな?」より「それ、美味しい?」が優先される世界。食事のたびに罪悪感を抱く文化とは真逆で、ここには“食の自由”がのびのびと息づいています。
美味しく食べて、よく笑い、よく歩く。無理なダイエットに振り回されるより、自分の「好き」を大切にしながら日々を過ごす。それが結果的に健康につながっているという、なんとも肩の力が抜ける生き方。その自然体の美しさに、何度もハッとさせられました。
食べることでリズムが整い、人との距離が縮まり、せかせかしがちな日常の中に、「ちゃんと立ち止まる時間がある」というだけで、自分の中に小さな余白が生まれる。1日5食の暮らしは、ただの習慣ではなく、生き方そのものだと感じるようになりました。
Rita


