共働き世帯の増加や離婚率の上昇、また不動産価格の高騰などを背景に、親子が同居、あるいは近居する生活スタイルに再び注目が集まっています。しかし、安易に同居を決めてしまうと、親子ともに予想外の事態を招くケースも少なくありません。64歳の木原夫婦(仮名)の事例をもとに、親と子の同居生活に潜むリスクをみていきましょう。辻本剛士CFPが解説します。※個人の特定を避けるため、登場人物の情報など一部を変更しています。
もう限界…年金月27万円の60代夫婦、退職金で買った「娘家族との同居用マンション」をわずか1年で出ていったワケ。きっかけは妻のひと言「義理の息子のトイレが長すぎる」【CFPの助言】
理想の暮らしに忍び寄る生活リズムのズレ
同居生活が始まった当初、木原さん夫婦は「こんなに幸せでいいのだろうか」と思うほど笑顔の絶えない毎日を過ごしていました。かわいい孫と一緒に食卓を囲み、娘や義理の息子とも和やかに会話が弾む理想の暮らしがそこにあったのです。
しかし、半年ほど経ったころから、妻の和子さんの様子に少し変化が見られるようになりました。ある日、雅史さんが「何か気になることでもあるのか」と軽く尋ねたところ、和子さんは「いや、別にたいしたことじゃないんだけど……」と前置きしたうえで、こう漏らしました。
「祐樹さんのトイレが長すぎるのよ」
その言葉に雅史さんもハッとしました。
「たしかに……そう言われてみると、何度か外まで行って用を足したこともあるな」と、思わず共感してしまったのです。
そしてこの日を境に、これまで気にならなかった義理の息子の行動が、徐々にストレスとして積み重なっていきました。
たとえば、シャワーの使用時間が長くて順番待ちが増えること、冷蔵庫の整理の仕方が自分たちのやり方と合わないこと、食器の片付け方が雑に思えること。このような小さな違和感が重なり、夫婦の心に少しずつ不快感が広がっていきました。
やがて2人は話し合い、「このままでは義理の息子を嫌いになってしまう」と結論に至ります。そして、家族関係を守るために、同居生活の解消を提案することにしたのです。
同居を成功させる「事前のルールづくり」
最終的に、木原さん夫婦と娘家族は冷静に話し合いを重ねました。その結果、「これ以上同居を続けて不満を募らせるより、距離をとったほうが家族関係を大切にできる」との結論に至り、木原さん夫婦が別に住むことになりました。同居してからわずか1年足らずの選択です。
ただし、購入したマンション自体は木原さん夫婦の名義のままです。そこで娘夫婦は今後、木原さんに家賃を支払う形で生活を続けることで合意しました。
二世帯住宅は経済的な負担を抑えられるなどの利点がある一方で、生活リズムや価値観の違いから関係がぎくしゃくすることもあります。
だからこそ、同居を検討する際は事前に家事や費用の分担、プライベート空間の確保といったルールをしっかり話し合っておくことが重要です。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP