共働き世帯の増加や離婚率の上昇、また不動産価格の高騰などを背景に、親子が同居、あるいは近居する生活スタイルに再び注目が集まっています。しかし、安易に同居を決めてしまうと、親子ともに予想外の事態を招くケースも少なくありません。64歳の木原夫婦(仮名)の事例をもとに、親と子の同居生活に潜むリスクをみていきましょう。辻本剛士CFPが解説します。※個人の特定を避けるため、登場人物の情報など一部を変更しています。
もう限界…年金月27万円の60代夫婦、退職金で買った「娘家族との同居用マンション」をわずか1年で出ていったワケ。きっかけは妻のひと言「義理の息子のトイレが長すぎる」【CFPの助言】
親と子の同居・近居が再注目される背景
近年、少子高齢化や共働き世帯の増加、未婚化・離婚率の上昇などを背景に、親世帯と子世帯の「同居」や「近居」への関心が高まっています。特に、高齢夫婦の老後を心配して同居を選択するケースが増えているようです。
実際、旭化成ホームズが公表した資料によると、同居を選択した理由として「親世帯の老後を考えて」と答えた人は60%にのぼります。
※回答者:子世帯夫婦(関東~九州21都府県)
息子夫婦同居(n=381)
娘夫婦同居(n=301)
出典:旭化成ホームズ株式会社「~2月10日は二(2)世帯住(10)宅の日~「二世帯住宅」発売から50年 親子同居の価値は「協力」プラス「安心」へ」を参考に筆者作成
また、同調査では30%以上の人が「建設時の経済的負担が少ないから」と答えており、経済的な負担を軽減できることも動機のひとつです。
不動産価格が高騰するいま、同居は住居費を抑えながら安心感を得られる選択肢のひとつとして、かつての家族のあり方を見直す契機となっています。
しかし、同居生活には住居費削減や家事・育児・介護の負担軽減といったメリットがある一方で、次のようなデメリットも存在します。
・生活リズムの違いがストレスになる
・家計の分担で不満が出る
安易に同居を決めてしまうと、期待とは裏腹に思わぬトラブルにつながるリスクがあります。木原夫婦の事例を通して、同居の“理想と現実”についてみていきましょう。
「義理の息子」と関係良好な木原夫婦
木原雅史さん(仮名・64歳)と妻の和子さん(仮名・64歳)は、現在2人暮らしです。ひとり娘の香奈さん(仮名)はすでに結婚しており、夫と子どもの3人で近くのマンションに暮らしています。
雅史さんは、娘の夫、つまり義理の息子である祐樹さん(仮名)のことを心から信頼していました。祐樹さんは優しく家族思いで、細やかな気配りができる人物、義理の両親である2人に対しても礼儀正しく接してくれます。
そんなある日、実家に遊びに来た娘から次のような相談を受けました。
「お父さんとお母さんのことが心配で……旦那もぜひって言ってくれてるし、よかったら同居しない?」
その言葉に、雅史さんは胸が熱くなりました。
年齢からか、小さな段差でつまずくことも増え、老後を夫婦2人で過ごすことに少なからず不安を感じていた雅史さん。愛するひとり娘とほんとうの息子のようにかわいがっている義理の息子、そしてかわいい盛りの孫と一緒に過ごせる生活は、まさに理想の老後そのものでした。
また、まもなく65歳を迎える雅史さんには、約3,000万円の退職金が入る予定です。
「せっかく同居するなら新しい家を買おう」と、その場で同居を決断。現在の住宅を売却し、売却資金3,000万円と退職金3,000万円を合わせ、木原さん名義で4LDKの広々としたマンションを購入することにしました。
「まさか、こんな日が来るなんて……」
木原夫婦は大きな希望を胸に、これから始まる同居生活に心を躍らせていました。