「使う勇気」が、家族の絆と人生の充実を取り戻す

林さんの「もう手遅れでしょうか?」という問いかけに対し、FPは静かに首を横に振りました。そして、林さんと妻が長年かけてお金を大切にする価値観を共有し、実践してきたことは素晴らしいことだと話します。

「奥様は、お孫さんへの教育費援助を否定していたのではなく、おそらく『お金だけがすべてではない』と考えていたのではないでしょうか。だからこそ、お孫さんと会えば手料理を振る舞い、一緒に遊ぶという形で、愛情を注いでいたのだと思います」

彰子さんが「お金」ではなく「行動」で家族に愛情を示していたことを強調しました。そして、今度は林さんが、行動で気持ちを伝える番だと続けました。

「人生には、死んでからではできない、生きたお金の使い道があります。お孫さんたちへの教育資金援助は、まさにその一つです。林さんの気持ちを伝えることで、娘さんたちもきっと喜んでくれるはずです。お金は単なる道具にすぎませんが、その道具を使う『勇気』を持つことで、家族との関係を修復し、新たな思い出を作ることもできるでしょう」

その言葉で、長年抱えていた「お金は減らしてはいけない」という思い込みから解き放たれた林さんは、勇気を出して娘たちに電話をかけました。林さんが教育費の援助を申し出ると、娘たちは最初こそ驚いたものの、すぐに「お父さん、ありがとう!」と、喜んでくれたそうです。

「急に生活スタイルを変えることはできませんが、これからは家族のために、自分の人生を豊かにするために、お金を少しずつ使っていこうと思います」と、林さん。

お金という道具を「残す」だけでなく「使う」と決めた瞬間、林さんの人生は再び輝き始めたのです。

【参考】
内閣府「令和6年経済財政白書
株式会社鎌倉新書「相続手続きに関する実態調査(2025年)

松田聡子
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