教育費にすべてを注ぎ込んだ50代夫婦、息子の就職に安堵していたが…

東京都在住の斎藤さん夫妻(仮名、夫58歳・妻55歳)は、製造業の会社員とパート主婦。ひとり息子の翔太さん(仮名・27歳)の教育に力を注いできました。

世帯年収は約850万円。決して裕福ではありませんが、大学・大学院までの教育資金として約2,000万円をかけました。夫婦の旅行や趣味は後回しにし、老後資金の蓄えも思うように進まない状況でした。

その甲斐あって、翔太さんは有名私立大学の大学院(修士課程)を修了後、日系大手のコンサルティング会社へ就職。年収は新卒でも約450万円と安定した待遇で、周囲からも「優秀なご子息」と評され、斎藤さん夫妻にとって自慢の息子でした。

「やっと教育投資が報われた」
「これで安心して老後の準備ができる」

妻は、そう思ってやっと肩の荷が下りた気がしていました。しかし、その安堵感は長く続きませんでした。社会人3年目のある日、翔太さんは突然実家を訪れ、こう切り出したのです。

「会社を辞めて、医学部を受けたい」

立派な志ではあるものの、斎藤さん夫妻は言葉を失いました。妻は一瞬、聞き間違いかと思ったそうです。脳裏に浮かんだのは、幼い頃からの息子の姿、大学・大学院までにかけた教育費、そして老後資金の残高。医学部といえば私立なら6年間で2,000万円〜4,500万円ほど、国公立でも350万円〜400万円は必要です。

「お金はどうするんだ?」と問いかけると、息子はこう答えました。

「この3年間で予備校資金として300万円は貯めました。節約のため実家に戻らせてください。それ以上は迷惑をかけません」

斎藤さんは複雑な心境を明かします。

「息子の覚悟は本物だと感じました。でも正直、『またお金がかかるのか』という不安もありました。私たちの老後資金はやっと1,000万円程度。これ以上の援助はできないと伝えつつも、実家での生活は受け入れることにしました」