エリート夫に「三下半」を突きつけた妻の真意

一方、妻の表情は晴れ晴れとしています。

「これ以上、自分勝手な夫に振り回されたくない。人生をリセットしたかったんです」

夫の顔色を見ながら、家事に子育てにとたった1人で頑張ってきた妻。当たり前のことだと思っているのか、夫から感謝の言葉を耳にしたことは一度もありませんでした。仕事が忙しいことは理解していたものの、育児で大変な時期も、夫は休日ゴルフに接待にと、妻のことは顧みずに出かけていきます。

長年不満を募らせていた妻は、ひとり息子が社会人となり、子育てが落ち着いたタイミングで離婚を決意したそうです。

とはいえ、離婚後の暮らしに対する不安は残ります。

離婚後、まず妻は地方にある実家に住まいを移しました。両親が鬼籍に入ったことにより、数年前から空き家となっていたのです。

覚悟はしていたものの、長年専業主婦だった妻が50代で再就職することは難しく、パート勤務を余儀なくされています。収入の確保に追われる日々が続き、離婚できた自由と気楽さはあるものの「理想の暮らし」からはほど遠い日々が続きます。

これまで感じてこなかった金銭的な不安が日に日に大きくなるなか、「あのまま耐えていればよかったのかも」と思い悩むようになりました。

離婚を考えるなら…忘れてはならない判断基準

離婚後の生活設計には、冷静な経済的判断が不可欠です。なかでも、まず確認したいのが「年金分割制度」でしょう。

年金分割制度とは、婚姻中に夫が得た厚生年金の一部を分割請求することで、妻自身の老齢基礎年金の上乗せとして安定した年金収入を得ることができる制度です。妻に厚生年金受給権がある場合には、その分も分割して相殺となります。

次に、財産分与。婚姻期間中に夫婦で協力して築き上げた財産として、原則2分の1ずつ分けることになります。預貯金や不動産のほか将来受け取る退職金も対象です。あくまでも婚姻期間中であるため、受け取る額の半分とは限りません。

不動産など分割できない財産については協議によります。いずれにしろ、離婚にいたる前に資産状況を把握しておくことが重要です。

また、離婚後の生活費についても検討しておきましょう。高齢期になると、突然病気や介護が発生するリスクが高まります。余裕を持って資産を確保しておくか、あるいは保険で備えるなどの対策が必要です。

今回の事例のように「離婚したい」という思いが先行し、夫婦間での話し合いができておらず、また離婚後の生活設計ができていないケースは少なくありません。

互いが納得いくまで話し合えるのが理想ですが、「顔を見たくない」「相手のペースに流されたくない」などの理由から、実際にはほとんど話し合わないまま離婚にいたるケースが多いです。後悔しないためにも、弁護士などの専門家に相談することもひとつの手でしょう。