リタイア後の人生をどう生きるか。これはアメリカでも日本でも共通した課題です。本稿では、『How to Retire お金を使いきる、リタイア生活のすすめ』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集し、投資調査会社モーニングスターの資産管理およびリタイア計画担当ディレクターであるクリスティン・ベンツと作家ラミット・セティの対談から、そのヒントをご紹介します。
「医療費が心配」「子どもにお金を残したい」億万長者なのに、それでも不安…倹約しすぎる高齢者の実態
お金を「使う」練習をする
クリスティン:お話をうかがっていると、私たちはお金を使う練習をしたほうがよさそうですね。リタイアのだいぶ前から、自分を喜ばせるお金の使い方について学んだほうがいいみたい。
ラミット:人生でいちばん自分にお金を使えるのは40歳から60歳のあいだなんです。40歳よりも若いとお金がありませんし、60歳以上になると自分や家族に健康上の問題が生じて、そちらにお金がかかります。
もちろん60歳までに自分を幸せにするお金の使い方がわからなかったとしても、手遅れということはありません。ただ僕が強調したいのは、いつだって今日が最良の日だということ。健康状態がいちばんよく、時間もある。家族や友人もいる。明日は今日よりも少し状況が悪くなる。そうやってカウントダウンしていきます。
死を話題にしたがらない人は多い。でも僕は妻に〝こういう状態になったら僕は生きていたくない〟とか〝僕が突然、交通事故に遭ったらどうなるか、今のうちに話しておこう〟といいます。両親とも同じ話をしました。
誰しもに訪れる死から目を背けるのは愚かです。もっとオープンに話し合うべきなんです。平均寿命からすると自分はあとⅩ年しか生きられないという事実を受け入れれば、自分に素直になれるでしょう。〝貯めたお金を使うのにもタイムリミットがあるのか。じゃあ何に使おう?〟という具合にね。
僕は倹約家の顧客に対して〝そんなに貯めてどうするつもりですか〟と質問するんですよ。ちなみに倹約家というのは僕の定義では「自力でお金を使おうという気になれない人たち」です。彼らがなんて答えると思いますか?
2通りあって、1つめは〝高齢になったら医療費がいくらかかるかわからないから貯めておく〟というもので、僕はそれに対して〝なるほど、たしかにそうですね。でも医療費用にポートフォリオの一部を分けて管理しておけばいいんですよ。保険を契約する手もありますし〟と助言します。するともう1つのよくある答えが返ってくる。〝実は子どもに遺したいんです〟というやつです。自分たちがお金の有意義な使い方を教えもせず、何千万ドルも子どもに遺すなんて無責任もいいところだ。そう思いませんか?
実は昨日が母の誕生日でした。母に電話して〝お誕生日おめでとう〟といったんです。母は気球に乗りたくて、父とナパへ旅行中でした。高齢の両親が精力的に外へ出て、新たな経験にお金を使い、それについて楽しそうに話してくれるというのは、子にとって希望です。
僕はとてもうれしい気持ちになりました。そんな両親を見て育ったから、今の僕があるんです。僕は両親にいいました。〝遺産なんていらない。お父さんとお母さんはアメリカへやってきて、成功して、僕ら子どもにすばらしい生き様を見せてくれた。お父さんたちのお金は最後の1セントまで自分たちのために使ってほしい。足りなくなったら僕が出すから、人生を楽しんで。それが僕らにとってのすばらしい遺産なんだ〟
クリスティン・ベンツ
ディレクター、コラムニスト
岡本 由香子
翻訳者