晩産化で増加する「教育費と老後資金の板挟み世帯」

田代夫妻のような状況は、現代日本では珍しいことではありません。厚生労働省の人口動態統計によると、2024年の第1子出産時の母親の平均年齢は31.0歳で、年々上昇しています。 また、2005年には40歳以上の母親が出産する件数は約2万件でしたが、2024年には約4.5万件に増加しています。 

子どもが遅く生まれた場合、田代家のような経済的なリスクを想定しておく必要があります。一般的に幼稚園から大学までの子ども一人あたりの教育費は1,000万円といわれています。文部科学省の「令和5年度子供の学習費調査」によると、幼稚園から高校までの15年間の学習費総額の平均は約650万円(幼稚園だけ私立の場合) です。

また、「令和5年度 私立大学大学院入学者に係る初年度学生納付金等 平均額(定員1人当たり)の調査」によると、私立大学理系の4年間の学費の平均は約540万円となっています。 この金額を合計するとゆうに1,000万円を超えることがわかります。

晩産化が家計に与える最大の問題は、教育費のピーク時期と老後資金準備期間の重複です。一般的に、子どもが0歳のときに親が30歳なら、大学卒業時には親は52歳。まだ老後資金準備に8年間の猶予があります。しかし田代家のように親が30代後半に子どもが誕生した場合、子どもの大学卒業時には親は60歳近くになります。定年直前まで教育費負担が続き、老後資金準備期間がほとんどありません。

住宅ローンとの三重苦も深刻です。多くの家庭では子どもの小学校入学前後に住宅を購入しますが、晩産の場合、住宅ローンの完済時期も遅くなります。田代家では健一さんが68歳まで住宅ローンが残る予定で、教育費・住宅ローン・老後資金準備が同時期に重なります。

さらに2022年以降の物価上昇により、家計支出は平均2〜3%増加。特に食費や光熱費の上昇は家計を圧迫します。また、日銀の金融政策転換により住宅ローン金利も上昇傾向にあり、変動金利を選択している家庭では返済負担が増加するおそれもあります。

企業の業績不振によるボーナスカットも、ギリギリの家計には大打撃です。多くの家庭では年2回のボーナスを学費支払いや住宅ローンのボーナス払いに充てているため、支給見送りは即座に資金繰りに影響します。

一方で、こうした経済的困窮を子どもに伝えていない家庭も多いと考えられます。結果として子どもは家計の制約を理解せず、親の負担はさらに重くなるという悪循環になるのです。

晩産化により、教育費負担と老後資金準備の両立が困難になる中、早期の資金計画と家族での情報共有の重要性が高まっています。