なぜ誤解が生まれたのか…熟年再婚特有の「お金と相続」の複雑な事情

敏明さんのケースは決して特殊な例ではありません。厚生労働省「人口動態調査人口動態統計」によると、2000年代に入ってから60歳以上の再婚件数が夫・妻とも増加傾向にあります。

しかし、熟年再婚の増加は同時に相続争いの増加につながると考えられます。家庭裁判所の遺産分割調停件数は年々増加傾向にあり、 再婚家族特有の複雑な相続関係もその一因といえるでしょう。

敏明さんの息子たちが不安に感じる理由を理解するには、連れ子の法的地位を知る必要があります。由香さんのような連れ子は、敏明さんと血縁関係がないため、そのままでは相続権がありません。しかし、養子縁組を行えば法定相続人となり、敏明さんの財産を相続する権利を得ることになります。

敏明さんが養子縁組をせずに由香さんに財産を残したい場合は、遺言書による遺贈が可能です。ただし、この場合は相続税の2割加算の対象となります。一方、養子縁組をした場合は、由香さんは法定相続人の地位を得ます。

また、養子縁組をしない場合でも、敏明さんの死後に純子さんが相続した財産は、純子さんの死後には由香さんが相続することになります。つまり、敏明さんの財産を最終的に由香さんが受け継ぐ可能性があるのです。実子たちはこの点についても不安を感じているのかもしれません

 実子である長男と次男の不安は、こうした法的な背景から生まれています。「父さんは連れ子に会社を継がせるつもりなのか」「資産5,000万円のうち、どれくらいが連れ子に流れるのか」。こうした不安が疑心暗鬼を生んでいるのです。

一方、敏明さんには再婚家族特有の複雑さへの認識が不足していました。再婚相手の連れ子への善意の気持ちは理解できますが、実子たちの立場から見れば「なぜ血のつながらない人のために父の財産が使われるのか」という疑問が生まれるのも無理はありません。

特に問題だったのは、事前の家族間での話し合いが不足していた点です。再婚時に「将来の財産分割はどうするのか」「連れ子への経済的支援はどこまでするのか」「養子縁組は考えているのか」といった重要な事項について、家族全員で十分に話し合っておくべきでした。

熟年再婚では単純な夫婦関係だけでなく、それぞれの子どもたちの利害関係も複雑に絡み合います。愛情だけでは解決できない現実的な問題について、事前にしっかりと向き合う必要があるのです。