親にとって、子どもは何歳になっても可愛いでしょう。ただ、年齢を重ねるなかで“適度な距離感”をとらなければ、どんなに仲の良かった親子であっても関係がこじれてしまうかもしれません……。娘の帰省を喜んだ70代夫婦の事例を通して、近年問題となっている、高齢の親に対する子の依存が引き起こすトラブルをみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。
7月中に出ていってくれないか…年金月25万円の75歳男性、居間でくつろぐ41歳娘にまさかのひと言。原因は“子煩悩な73歳妻”の異変【CFPの助言】
穏やかな日常はどこへ…家庭は崩壊寸前
その結果、Cさんの“親への依存”がエスカレート。仕事もせず、外出もせず、家に引きこもるようになりました。
娘の生活費を補うため、Aさんはビルの清掃、Bさんは食堂の厨房と、それぞれパートを始めることに。Aさんは定年から10年のブランク、Bさんは数十年にもおよぶブランクがあります。
その結果、疲労と将来に対する不安などのストレスから余裕を失い、仲がよかったはずの夫婦関係も険悪に。当初は娘の帰省を誰よりも喜んでいたはずのBさんでしたが、いまや娘が食べたまま放置している食器をみて舌打ちする始末です。
そんな日々が続いていたある日のこと。清掃の仕事から疲れて帰ってきたAさんは、朝と同じ服装、体勢のまま居間でくつろぐCさんを見て、ついに堪忍袋の緒が切れました。
「なあ、C……いますぐにとは言わないから、7月中に出ていってくれないか」
原状に対するストレスや将来への不安、その原因である娘へのイラ立ちがついに溢れ、気づくと震えた声でそうつぶやいていました。
Cさんは父親のまさかのセリフに絶句し、Bさんはおろおろ。我に返ったCさんは、顔を真っ赤にしてドシドシと足音を鳴らしながら自室に戻っていきました。
「このままでは家庭が崩壊する」と途方に暮れた夫婦は、第三者の冷静な意見を聞くために、ファイナンシャルプランナー(FP)である筆者のところへ相談に行くことにしました。
貯蓄はたった1年で200万円目減り…目先に迫る「老後破産」
夫婦から話を聞いた筆者は、今後の家計収支の推移を試算してみました。
まず、70代のA夫婦は自分たちの介護や看護が必要になったときのために、ある程度まとまった貯金を残しておかなければなりません。
しかし、Cさんが戻ってきてからは、Cさん分の衣食住に使う支出が増えて、家計は毎月赤字です。加えて、Cさんの国民年金保険や国民健康保険の保険料などもAさんが代わりに納付しています。
そのため、これまで10年間で100万円も減らなかった貯蓄は、この1年で200万円も減っています。
固定費の削減をはじめ、現状の家計を改善するための応急処置は伝えたものの、Cさんが立ち直らない限り、根本的な解決にはなりません。このままの支出が続けば、夫婦の年金とパート収入で家計を補うのは難しいでしょう。近い将来、A家の家計破産は明らかです。
夫婦に話を聞くと、Cさんが仕事を辞めて戻ってきた原因は、仕事やプライベートでのストレスとのことでした。しかし、両親が何度なく聞いてもCさんはそれ以上話さないため、詳細は謎のままです。
そこで筆者は、まずCさんの問題を解決するために、夫婦に対して地域包括支援センターやひきこもり地域支援センターなどを訪ね、専門家の支援を受けることを勧めました。
事の重大さに気づいた夫婦は、当面全力でCさんが回復するようにサポートをするといって、帰って行かれました。