良くも悪くも収入が安定しないフリーランス。生活に困窮する事態に陥るケースもあるが、「生活保護を受ければいいのでは?」と聞かれると、そうもいかない複雑な事情があるという。本記事では、長年非正規雇用で働きながら社会問題について発信してきた文筆家・栗田隆子氏の著書『「働けない」をとことん考えてみた。』(平凡社)を一部抜粋し、フリーランスの困窮や福祉制度などにおける“イレギュラー”な扱いについてご紹介する。
全財産4,000円とギリギリの状況でも「じゃあ生活保護を」とは言えない理由…〈フリーランス困窮〉の複雑な実情
福祉制度でもイレギュラーな扱い
そんな中でお金を支払いたい時に手元にないといった失敗をするなど金銭管理の難しさを感じている。しかし新自由主義の世界では「金融リテラシー」という能力が奨励されている。家計のやりくりがうまくいかない、貧しいということは金融リテラシーが足りない個人的な能力の問題として認識され、またまた社会的な背景や構造はスルーされるのだ。
このような経験をして、昔の文学者とか芸術家が不摂生に走ったり、精神的に不安定になったり、病を得てしまう理由がわかる気がした。後世の人はその事実を「天才の悲劇」とか「芸術的な人は凡人とは感性が違うから」という言葉で解釈してしまいがちだ。精神が不安定だからこそ安定した生活ができないのか、安定した生活ができないからこそ精神が不安定になってしまうのかは鶏と卵のような関係でどちらが先かはわからないけれど、この負のスパイラルに巻き込まれる文学者とか芸術家は多く存在したに違いない。
私の場合、フルタイムの労働者として働くことは厳しいが、かといって不安定な収入に対応できる金銭管理能力に長けているかというと心許なく、あわあわと動揺しながら何とか今を生きているのである。
さらにフリーランスは労働法からはじかれるのみならず、福祉制度の中でもイレギュラーな扱いになっている。フリーランスや自営業者(第1号被保険者)は基本的に国民年金に加入することになるが、会社に雇用されている人(第2号被保険者)が加入する厚生年金に比べると負担が大きく、毎月の保険料を支払えない人も多いはずだ(ちなみに保険料が支払えない場合は免除申請をお勧めしたい。保険料を支払わず、免除申請をしていないと障害年金制度を利用できない場合もあるからだ)。
生活保護も無収入、あるいは低収入の状態が継続されることが念頭にあると思われる。収入がほとんどない月があるかと思えば、まとまって入る月もある状態で生活保護を受けると、生活保護の受給のタイミングによっては、本来の額よりも多くもらってしまうこともあり「過払金」が発生する。実は私は現在その「過払金」を返還する義務を負ってもいる。
栗田 隆子
文筆家