俺みたいに「意地」だけは張るな!

俺はラーメン屋として、決して成功した人間ではない。順風満帆だったことなんて、一瞬たりともなかったし、それは今でもずっと続いている。いろんな人から「ここをこうしたほうがいい」とか「川田さんはなんにもわかっていないよ」と忠告されたこともあったけど、アドバイスされることのほとんどはとっくにわかっていることだし、そのうちのいくつかは試したことだってある。

でも、それだけで上手くいくほど、ラーメン屋は簡単じゃないんだ。だから、この本には「こうやったら上手くいきますよ」なんて甘い言葉はまったく書いてこなかったし、反面教師にしてほしくて、「これだけはしてはいけない」という失敗談を意識的にたくさん放り込んできた。

まぁ、明確な正解なんてラーメン業界には存在しないので、「してはいけない」を繰り返していても、奇跡的に成功するケースだってあるだろう。ただ、ひとつだけ間違いなく忠告できること。それは「俺みたいに意地だけは張るな!」である。

ビジネスの世界で意地を張ると金が溶ける

この世界の厳しさを裏付けるために、俺はいろんなデータもお伝えしたけど、ここであらためて確認しておきたいのは、新規ラーメン店のその後だ。「新規で立ち上げたラーメン専門店の3割が1年以内に消える」リサーチ会社によっては「4割が潰れる」としているところもあるが、共通している数字は「3年以内に8割以上のラーメン専門店は消える」ことだ。

つまるところ、ラーメン屋を独力で立ち上げたとしても、3年後に残るのはたった「2割」にも満たないという現実だ。ただ逆説的に考えると、「8割」の人の傷は浅かったかもしれないし、彼らには「やめる勇気」があったのかもしれない。前にも書いたけど、ウチもオープンから1年が経過した時点で店を畳んでおけば、ダメージは最小限で食い止められたんだ。でも、俺はそこで意地を張ってしまった。

資金がなければ意地も張れないけれど、貯金やベンツをスープに溶かしてしまった。ここで終わるわけにはいかない、店を潰すわけにはいかない、と。これはある程度、名前が売れている人間が抱えてしまうジレンマかもしれない。一般の方なら、店を潰してしまっても、ごく一部の人にしか知られることはないけれど、俺の場合「川田がたった1年で店を潰した」と世間に知られてしまうからね。

そうなるとやっぱり意地を張りたくなっちゃうんだよね。下手に顔と名前も知られてしまっているから、転職をするのもいろいろと難しいんだ。となると、店を畳んだとしても、また何か自分で事業を始めなくてはいけない。だったら、すでに数千万も投資してしまったこの店を存続させることを考えたほうがいいのではないか?