現在の職場に留まりながらも意欲を失い、最低限の業務のみをこなす状態を指す「静かな退職」。2022年にアメリカのキャリアコーチがSNSで「Quiet Quitting」と発信したことで話題になり、日本でも注目されました。2月には「Great Place To Work® Institute Japan」(GPTW Japan)が最新の調査を発表。昨年に続く調査で、新たに明らかになった実態とは?
意欲を失った社員は「辞めない」!? 経営層はまだ気づいていない… 中間管理職にのしかかる「静かな退職」の実態【最新調査】
「働きがい」の重要な要素「連帯感」って?
今回の調査結果について、同社代表の荒川陽子氏に話を聞きました。
――御社は「働きがいのある会社」に関する調査・分析を行っているということですが、その要素の一つである「連帯感」について教えてください。というのも、「静かな退職」に関する調査でも「『連帯感』に悪影響を及ぼすことが予想される」と指摘されていました。
荒川陽子氏(以下、荒川):「働きがいのある会社」に関する調査では、「自分らしく働けているか?」という設問も含まれています。これは、一人ひとりが認められ、自分の力を最大限に発揮できる職場環境が重要だという考えに基づいています。
また、私たちは「お互いを認め合い、一体感を持って働けること」を「連帯感」と定義しており、日本においてもこの要素を大切にしています。
「静かな退職者」の特徴
――「静かな退職者」の特徴について詳しく教えてください。
荒川:前回の調査では、「プライベートを優先したい」「自分の働きに見合ったインセンティブが得られず、会社に期待しなくなった」といった傾向が見られました。ただ、最初から静かな退職を選ぼうと思って入社する人はいません。どこかで不本意な出来事があり、それをきっかけに会社への気持ちが離れてしまったものの、辞めるほどではない——そんな微妙な心理状態なのだと思います。
また、彼らは「浮上のきっかけ」をつかめなかった人たちとも言えます。仕事をしていれば誰しも調子の波がありますが、落ち込んだときに上司や同僚、クライアントとの関わりが支えになることもあります。静かな退職を選ぶ人は、そのつながりが希薄で、結果的に自分から周囲との関係を断ってしまっている印象がありますね。
――最近、リモート勤務を減らし、出社を推奨する動きが広がっています。やはり周囲とのつながりは重要なのでしょうか?
荒川:リモートか出社かに関わらず、周囲との関わりはとても大切です。そもそも、一人だけで完結する仕事はほとんどありません。もし「職場の関係性を良くするのは自分には関係ない」と思ってしまうなら、それはとてももったいないことだと思います。
――働きがいにも影響するのでしょうか?
荒川:はい。ひとりひとりが「この職場をより良くしよう」と思えなければ、働きがいは生まれません。「経営層や人事・総務が何とかしてくれる」と考えているだけでは、働きがいは上がりません。
何とかしようとする中間管理職、気づいていない経営層
――「静かな退職」について、経営・役員の認識が追い付いていない様子がうかがえるということでしたが……。
荒川:「静かな退職」は、離職率だけでは把握できないのがポイントです。経営層は離職率が上がると「何とかしないと!」と慌てますが、静かな退職の特徴は「辞めない」こと。だからこそ、従業員が何を感じているのか、辞めるつもりはないが意欲が低い人がどれだけいるのかを、職場単位でエンゲージメントサーベイ(従業員の関与度、やる気を定量化して測定するための調査)を使って定期的に確認し、必要に応じて適切に介入することが大切です。
PDCAサイクルを回しながら、サーベイの結果を活用することが重要です。しかし、「辞めないけれど意欲が低い層」への感度が低いと、漠然と「全体のエンゲージメントを上げよう」となり、サーベイを十分に活かせません。離職率には反映されない「静かな退職予備軍」に目を向け、適切な対策を講じることが求められます。
――多くの企業が取り組んでいる1on1も大事でしょうか?
荒川:「静かな退職」に対して中間管理職が何とかしようと対処しようとしていることが今回の調査で見えてきたのですが、そこで止まってしまっていることが浮き彫りになりました。上層部はその努力を察知し、メンバーの状況を吸い上げて適切にマネジメントすることが必要です。ただし、現場任せにせず、どこで問題が起きているのか、構造的な課題や評価の仕組みなどについて経営層がしっかりと対処する必要があると考えます。
GPTW Japanは、2025年版日本における「働きがいのある会社」ランキングベスト100を2月12日に発表。東京都内で会見を開催し、「静かな退職」の実態に迫った最新の調査結果も発表されました。
THE GOLDONLINE編集部