リモート化が進んでも「人と会うこと」は削らない

人と直接会うことと、相手の会社に出向くこと。わたしは、仕事でこの2つは省きたくないと思っています。コロナで自宅待機になり、Zoomやteamsなど、オンラインでのやりとりを経験してなおさら、相手と直接会うことの大事さに気がつきました。

相手もこちらに好意的で、ぜひ会いたいという関係なら、オンラインでもいいかもしれません。でも、こちらからお願いしたい、つまり営業的なお話なら、顔を見てもらわないと、その目的を果たすことは難しいでしょう。会うことが大事だと思う一方で、どれだけ時間をかけて打ち合わせをしたかは問題ではないというか、できるだけ「手短に」お話しすることを心がけています。

九州まで半日かけて出張したにもかかわらず、打ち合わせをした時間は正味30分ほどだった、ということもあります。とにかく早々にホテルに帰ってシャワーを浴び、昼寝をして、夜の会食に備えていたことがほとんどです。

それでも別に遊んでいるわけではありませんし、打ち合わせの前後に「会社の空気」(社員の人たちの動き)を観察しておくことは、とても大事な情報収集になります。出張を楽しんではいけません。油断してはいけません。出張する際には「会社を背負って新幹線、あるいは飛行機に乗っている」という自負と自覚が必要です。たとえ帰路であっても、間違っても、社員バッジをつけたまま、席を向かい合わせにして「酒盛り」を始めるようなことをしてはいけません。

ほかにも、出張先でケガをしたり、病気になってしまったら、周りに迷惑をかける可能性があります。わたしは国内外問わず、出張先では、会社の人が同行しない場合は出かけないようにしていました。「遊びに行く」わけではないのだから、当然のことです。

現代で好まれる「単純なもの」ばかりでは「感性」は育たない

わかりやすく単純なものばかり求めていては、感性は育たないと思います。現在は、「わかりやすい表現」「より短く具体的な表現」が喜ばれる傾向があると聞きました。それは『思考の整理学』(筑摩書房)の外山滋比古さんが言う「グライダー(滑空機)的性格」です。

つまり、エンジンを積んでいないので、飛行機に曳航(えいこう)してもらわないと上空まで上がれない。ガタガタの道はいやだ、できるだけ滑らかな道の上を歩きたいというわけですね。でも、本来は「その苦労」が工夫を生むきっかけになるんですよね。

自分の思いつかないアイデアも、自分だけで全部考えようとしないで、「他人の入る余地」を残しておくと、意外な考えを教えてくれることがあります。そこには人間同士の微妙な感覚や、繊細な感情が入り込む余地があるのです。