デザインとは効率を重視し、無駄なものを削っていくこと。これは同時に「削ってはいけないこと」を大切にする必要があります。人生において軽視されがちであっても削ってはいけないこととは? 本稿は、人気プロダクトデザイナーの秋田道夫氏の著書『仕事と人生で削っていいこと、いけないこと』(大和出版)より一部抜粋・再編集したものです。

あれも無駄、これも無駄…「タイパ・コスパ重視」現代人の悲しい末路【Xフォロワー10万人超・70代人気デザイナーが警鐘】
自分の専門外のことも「無駄」と思わず勉強した方がいい
自分の専門分野を勉強する。これは当たり前です。
デザイナーなら、デザインを勉強していて当たり前。お笑い芸人の人たちの中には驚くほど頭の回転が速く、「ワードセンス」に長けた方がいます。それは長い間、「このタイミングで、どんなことを言えば、話全体がひっくり返って笑いに変換できるのか」というトレーニングを重ねてきたからです。普通の人からすれば、予想もしない方向から言葉が飛んでくるわけです。正面や後ろには注意をしても「あらぬ方向から」発言されれば、一般的な人にはかなわないのも道理です。
デザイナーだったらデザイン以外の「風」のことも学んでおくと、デザインの厚みが増し、「あらぬ方向から」でも対応できるようになるのかと思います。わたしが社会人になって驚いたのは、周りに建築や絵画に対して知識を持っている人が案外にいなかったことです。
わたしはというと、アメリカ出張でグッゲンハイム美術館のポスターを買ってきて、勝手に自分の職場の壁に貼ったり、当時は一般的でなかったブルックス・ブラザーズで買った革ジャンを羽織って通勤したりして、一言でいえば異色な存在でした。社内では、同じ部門よりも設計部門の人と仲がよかったです。自分の知らないことを教えてくれるから話していて面白かったし、相手もわたしの話を面白がってくれました。そんなわけで、しょっちゅう設計のあるフロアに遊びに行っていました。
ほかのフロアで雑談して、手ぶらで帰ったらただのサボりですが、わたしはちゃんとおいしい獲物(設計が持っている事案の情報とか)を持って帰ったので、怒られることはありませんでした。そんなふうに、会社の中でも外でも自然とさまざまな情報を集めてきたことが、わたしの血肉になっていると思います。
秋田 道夫
プロダクトデザイナー