無個性によってクリアされる「最低限の条件」

かなり前のことですが、「就職活動でリクルートスーツを着ることは個性をなくす」とブログに書いている人がいました。わたしはリクルートスーツ大賛成です。なぜかというと、ある地方の旅館に泊まった翌朝、新聞の折り込みにユニクロの広告が入っていたのを見たからです。こんな場所にもユニクロがあって、東京で売られているものと同じものが買える。これはすごいなと思ったのです。

リクルートスーツは、いろいろなメーカーが安い値段で販売していますよね。1万円出すとスーツが買えるのはすごいことです。それによって、就活生は最低限の条件がクリアできます。「自分の個性を出そう」なんて言うと、その学生の経済状況がわかってしまいます。

それでも、「リクルートスーツだ」と言い張って、有名ブランドのスーツを着てきてしまう人もいるかもしれませんが、それは本当に一部です。リクルートスーツというのは、みんな一緒。ある意味、学生服と一緒です。個性も特徴もなくて、首から下は何もないかのように見せられるのがリクルートスーツです。条件が一緒ということは、「人」を見てもらえます。自分を磨く甲斐があるというものです。

だから、わたしは大賛成です。もちろん、似合っていたら、さらにいいですけどね。

誰も見ていなくても「常識人」でいる

仕事で大事なのは、エチケットや挨拶、日常の生活態度です。

わたしに仕事を紹介してくださった人たちは、結局のところ、「デザインについてはわからないけど、平素の秋田さんを見ていると常識もあるし、マナーもユーモアもあるから、紹介先ともうまくやっていくだろう」と考えたのだと思います。この話はデザイナーにかぎりません。仕事以外がちゃんとしていないと、仕事のレベルも上がっていかないのだと思います。

AIの進歩で一躍世界一の半導体メーカーになったNVIDIAの創設者であるジェンスン・フアンさんのエピソードなのですが、彼が起業した際、職場の上司に「CPUでは処理しきれないから、映像専門のデバイスを作るべきだ」と話したところ、上司は彼が何を言っているのか全然理解してくれなかったそうです。

しかし「平素の君が真剣に仕事に向かっていることを知っているから、その試みは間違っていないだろう」と言って、投資家を紹介してくれたというのです。かといって、先生が見ているときには掃除をするのに、先生がいなくなったら箒で遊ぶのは小学生まででやめましょう(小学生でもダメですが)。

人の目ではなく、「自分に対する自分の目」に嘘をついてはいけません。どこで誰が見ているかわかりません。少なくとも自分は見ているわけですから。

秋田 道夫
プロダクトデザイナー