AIとAIのコミュニケーションとは?
第三の類型であるAIとAIのコミュニケーションはなかなか具体例が想像しづらい分野です。実用的な分野ではスマートフォンのAIと自宅のAIが連携して家電を動かしてくれたり、あるいは異なる人のパーソナルAI同士が連携して、ミーティングのための日程調整をしてくれたりというという用途が考えられます。
ですが、エンターテインメント用途でもAI同士のコミュニケーションは意外な活躍の舞台がありそうです。現在、もっとも実装に近づいているのはゲームの世界でしょう。現在、ゲームに登場するキャラクターは与えられたシナリオに沿って行動、発言するだけですが、AIによってそれぞれが話しだし、独自の行動をするようになると、ゲーム世界のリアリティが増します。プレイヤーが話しかけなくても、ゲーム内のキャラクター同士で会話しているとなれば、本物の人間を相手にしているような没入感が得られるわけです。
ファンタジー世界を冒険するような、いわゆるRPG(ロールプレイングゲーム)での実装も楽しみですし、あるいは自分の街や村を作っていく、いわゆる箱庭型ゲームの場合でも、その世界の住民たちが勝手に会話している姿を眺めるのは楽しい体験となりそうです。
こうしたエンターテインメントやコミュニケーション分野でのAI活用は、ビジネス分野での活用以上に広がる可能性があります。それというのも、ビジネスでの実装には正確性が不可欠であり、現在のAIでは応用できる分野が限られているという欠点があるためです。
一方、エンターテインメントやコミュニケーション分野では、ある程度の不正確さは許容されます。そもそも人間同士の会話もさほど正確なものではありません。それでもコミュニケーションが可能なのは、メッセージを受け取る側が不足している部分を想像力で補っているからです。
たとえAIに不自然な部分や間違いがあったとしても、コミュニケーションする人間側がそれを許容する姿勢を示せば、十分に実用的な存在となるわけです。今ほどAIの技術が進化する以前から、簡単な言葉を話す人形や、限られたパターンの応答しかできないチャットボットを相手に、多くの人々がコミュニケーションを楽しんできたのですから。
AIは、私たちの生活をより豊かに、そして楽しくしてくれる可能性を秘めています。今後、AIがどのように進化し、私たちのコミュニケーションをどのように変えていくのか、注目しましょう。
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[プロフィール]
高口康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。