定年退職を機に、“最後の贅沢に”と高級老人ホームへの入居を決めた元公務員の仲良し夫婦。十分な年金額に多額の貯金、入居後の生活をシミュレーションしても、なんの問題もありませんでした。しかし、夫婦を待ち受けていたのは“まさかの未来”だったのです……老人ホームなどの施設選びにおいて「見落としがちな注意点」について、事例をもとにみていきましょう。牧野FP事務所の牧野CFPが解説します。
なんでこんなことに…年金月32万円・貯金5,000万円の60代元公務員夫婦、最後の贅沢〈高級老人ホーム〉入居で“最高の老後”が一転、3年後“家賃6万円の築古1R”に引っ越したワケ【CFPの助言】
老人ホームにかかる費用は…
A夫妻が入居を検討していた老人ホームは、2人での入居時と入居中に必要な費用を、次のように定めていました。
介護は必要としない自立した人が入居するとき(A夫妻が該当する)
<入居時>
■入居一時金(前払い金)か毎月賃料を支払う
入居時に、平均余命などを考慮して想定居住期間分の家賃を全額一度に支払う方法。賃貸住宅と同様に毎月賃料を支払う方法と選択できる。一時で支払うと入居後に賃貸料負担はないが、入居時にまとまった資金が必要となる。
■敷金
退去時返還される担保代金。入居一時金を支払うと賃料の1ヵ月分。賃料月払いでは賃料の6ヵ月分が必要。
<毎月>
■月額利用料
食費や管理費、施設使用料など毎月支払う費用。A夫妻の入居時の年齢は61歳と60歳。老齢年金受給までに数年あるため、入居一時金を支払うことはせずに毎月賃料を払うこととして、敷金228万円を支払いました。
毎月の支払いは、賃料が月38万円と月額利用料が夫婦で40万円、合計して78万円の年間936万円です。それにレクリエーションなどの追加費用を加えると、毎年1,000万円近くの出費になりました。
夫婦は、入居してから2年近くは、居室からの眺望に、充実した食事や施設を思う存分利用して、楽しく快適に過ごしていました。遊びに来た娘夫婦からも「こんなに良いところだったの? いいなぁ、私たちもここに引っ越したい」と言われ、ご満悦でした。
入居から2年後…“最高の老後”が一変
入居から2年と少し経ったころ、施設の運営元が変わりました。すると、設備のメンテナンスや普段の料理、スタッフの数・質など、あらゆるサービスが以前と比べて明らかに劣化しはじめたのです。どうやらいまの運営元にとってこの施設は、「費用をかけすぎている施設」と判断して、露骨なコストカットが始まったようでした。
その結果、A夫妻が入居時に感じていた施設の魅力は一切なくなってしまいました。しばらくは我慢していたものの、業務過多によるスタッフのピリピリムードが、ついに入居者にも影響しはじめたのです。
「このままここにいたら自分たちもなにか意地悪されるのではないか」と悩んだ夫妻は、施設からの脱出を図ることに。とはいえ、自宅はすでに売却したので帰る家はありません。そこで、賃貸住宅に引っ越すことを考えました。