自動運転はいつ実現するのか――その問いに明確な答えはないまま、期待だけが繰り返されてきました。しかし、中国ではロボタクシーが現実のものとなりつつあります。2024年初頭の法改正を受け、バイドゥの「Apollo Go」が商業運行を開始。固定された乗降スポットやリモート監視を行う「安全員」を配置するなど、現実的なアプローチで運用されています。この事例から、自動運転の現在地と課題、そして将来の可能性が浮き彫りに。中国経済に詳しいジャーナリストの高口康太さんが解説します。
自動運転は本当に実現するのか?ロボタクシーとE2E技術が描く未来図 (※写真はイメージです/PIXTA)

バイドゥ傘下の「Apollo Go」は無人ロボタクシーの商用サービスを開始

こうした状況の中、中国でユニークな取り組みが生まれている。検索大手バイドゥ傘下のロボタクシーサービスApollo Go(蘿蔔快跑)だ。2024年3月、湖北省武漢市で運転手を乗せない無人ロボタクシーの商用サービスを開始。現在では10都市以上でサービスを導入している。2024年6月末時点ではサービス提供回数は累計700万回を達成。中国以外の国でも展開を計画するなど破竹の勢いで成長している。

 

バイドゥはもともと自動運転車向けプラットフォーム「Apollo」を推進してきた。中国の自動車メーカーに加え、米フォードや独ダイムラーといった外資系自動車メーカー。そして、エヌヴィディアやマイクロソフト、インテルといった半導体メーカーやソフトウェアメーカーとアライアンスを組み、世界標準の自動運転OS(オペレーションシステム)を開発する計画だった。しかし、自動運転実現の壁が高いこと、傘下企業が必ずしも一枚岩ではなかったことから思うように計画は進まなかった。そこで自社運営のロボタクシーへと重点を移している。

 

このApollo Goの特徴はリモートドライバーを使った商用サービスという点にある。一見すると、運転手のいない無人タクシーに見えるが、実は安全員と呼ばれるスタッフが遠隔から走行をずっとサポートしている。危険な状況があればすぐに介入するほか、エッジケースにも対処する。中国メディアの報道によると、1人の安全員が3台の車の走行を監視しているという。ほとんどの時間は自動運転で走行するため、危険がないか見ているだけでいいというが、目を離してはいけない。3秒以上目を離すと、アラートがなり担当者が処罰されるという過酷な仕事だという。

 

リモートドライバーという仕組み自体はこれまでにもあったが、それを使った大規模な商用サービスは世界初だ。いわばタクシードライバーが車に乗りこむのではなく、遠く離れたコントロールセンターから操作しているようなものだが、それでも1人で3台をコントロールできるとなれば効率は高い。

 

また、Apollo Goは普通のタクシーとは異なり、主要道路など大きな道しか走らず、乗降地点も決まっている。一般のタクシーよりは不便だが、エッジケースが出現しないよう利用状況を制限しているわけだ。
 

自動運転イメージ(画像はイメージです/PIXTA)
自動運転イメージ(画像はイメージです/PIXTA)

 

どうやって人間と同じ運転をできるようにするか。この命題をクリアするため技術開発に取り組んできた自動運転とは異なり、今ある技術でロボタクシーをどう実現するかというアプローチである。このApollo Goの快進撃はどこまで続くのか、日本でも同様のサービスを行う企業は出てくるのか、今後が注目される。

 

 

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[プロフィール]

高口康太

ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。「クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。