日本の新聞の医療情報は偏っている

日本の新聞は日本人の研究ばかりを掲載する

医療に関する情報のうち、とくに最新の研究報告を入手する方法として、新聞を活用している人は多いと思われます。また、情報収集の意識をしなくても、新聞を読んでいたら偶然に医療・健康情報に接することもあるでしょう。

総務省の令和3(2021)年版「メディアに対する信頼」の調査報告では、各メディアに対する信頼度を「信頼できる」「半々くらい」「信用できない」「そもそもの情報源を使わない」の4段階で評価しています。これによると、「『信頼できる』については、新聞(61.2%)、テレビ(53.8%)、ラジオ(50.9%)の順に多く、マスメディアに対する信頼性が高い。」となっています。

メディアの中でもとくに五大紙(朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・日本経済新聞・産経新聞)の場合、掲載される医療情報は、証拠を集めたり、裏付けを取ったりと情報の真偽を確認していることが期待されます。

しかしその前に、そもそも「新聞に掲載される情報の選択はどうなっているのか。偏りはないか」を知っておく必要があります。

世界各国の新聞事情に関する研究として、フランスのボルドー大学の研究者とわたしの共著の医学論文があります。タイトル(以下、邦題)は「新聞は、自国の科学者が関与する生物医学研究を優先的に報道するか?※1」です。2019年に医学ジャーナル(雑誌)『Public Understanding of Science(パブリック・アンダースタンディング・オブ・サイエンス)』に発表しています。わたしは日本の新聞の現状を調べました。

この論文は、「ある国の新聞が医学の研究結果を記事として掲載する際、自国の研究者の記事ばかりを載せていないか」ということを、8カ国(オーストラリア・カナダ・フランス・アイルランド・日本・ニュージーランド・イギリス・アメリカ)の123本の英語の医学論文について調べたものです。

興味深いことに、「日本の場合、日本の研究者が参加する論文7本のうち6本が日本の新聞の記事になっているが、日本の研究者が参加していない116本のうちでは、日本の新聞の記事になったのは6本」でした。

すなわち、「日本人が参加する論文は、参加していない論文より16.6倍、記事になりやすい」ということです。では、ほかの国の事情はどうでしょうか。

「オーストラリア1.81倍・カナダ1.54倍・フランス2.92倍・アイルランド2.36倍・ニュージーランド5.95倍・イギリス1.48倍・アメリカ1.65倍」と報告されています。

この結果から、どの国も自国の研究者の研究を記事にしやすい傾向はあるものの、日本は圧倒的にその傾向が強いといえるのです。

「日本の新聞に日本人研究者の報告が掲載されるのは当然のこと」「ここは日本なのだから、それがどうした?」と思われるかもしれません。

しかし実のところ、調査した他国ではその割合は日本に比べて非常に少なく、つまりは他国の新聞は日本の新聞よりはるかに、「自国以外のさまざまな研究報告も掲載している」ことが明らかになったのです。この点から、「日本の新聞記事に掲載された医学情報は、海外の研究に基づくものは少なく、ほとんどが日本の研究に偏っている」ことが推察できます。