「英語の壁」で海外の研究報告が掲載されない?

ではなぜ、日本の新聞は他国に比べて、日本のチームの研究報告を優先して掲載するのでしょうか。それにはいくつかの背景が考えられます。

そもそも医学論文の多くは、日本人の研究でも英語で発表されます。とくに、医学の発展に寄与する重要な研究は英語で世界中に知らされます。その内容を十分に理解して記事にするには、まずは「英語の壁」があるのではないか、とわたしは考えています。

日本の新聞記者にとっては、医学研究に関する専門用語の壁の前に英語の壁が立ちはだかって、外国人研究者よりも、身近にいる日本人研究者のほうが取材しやすい傾向にあると見受けられるからです。

ほかの7カ国の新聞記者は、英語が母国語であること、または日常的に使い慣れている環境にあるために、論文の理解はもとより、英語での取材が容易なのだと推察できます。

ただし、世界で行われる研究のうち、日本の機関による研究報告の占める割合がほんのわずかだということは、研究者なら誰もが認識していることです。しかし、日本の新聞が世界的に重要な医学情報を掲載しないことについては、あまり気づかれていないのではないでしょうか。

海外で議論沸騰となった論文も日本では…

世界には有名な医学論文がたくさんあります。その価値を数値で示す指標が、次のようにいくつかあります。

①論文が掲載された「ジャーナル」(自然科学・社会科学の学術雑誌)の「インパクトファクター(IF:Impact Factor)」……掲載された論文の被引用回数から計算される、そのジャーナルの影響力を表す指標

②「論文の被引用回数」……ほかの論文などに引用される数

③「オルトメトリクス(altmetrics)」……ネットニュースやブログ、SNSなどでどれぐらい参照、閲覧されたかを示すネット上の反響の指標

日本の場合、論文の著者グループに日本人が参加していると、日本の新聞に取り上げられる可能性は高まりますが、そうでなければ、世界的に有名で重要な医学論文であっても無視される可能性が高まります。

ひとつの例として、京大とオックスフォード大学(イギリス)が共同で行った「メタアナリシス(メタ解析)」(集めてきた膨大なデータを統合して解析する研究。第七章で詳述)を紹介しましょう。