新聞やテレビなどで報じられる日本人の活躍。医学研究の世界に関する日本の新聞の現状を調べたところ「日本人が参加する論文は、参加していない論文より16.6倍、記事になりやすい」ことがわかりました。「日本の新聞に日本人研究者の報告が掲載されるのは当然のこと」と思う人も少なくないでしょうが、他国の新聞は日本の新聞よりはるかに、「自国以外のさまざまな研究報告も掲載している」ことが明らかになりました。本記事では、京都大学大学院医学研究科健康増進・行動学分野准教授の田近亜蘭氏による著書『その医療情報は本当か』(集英社)から一部抜粋し、「日本の新聞」に掲載される医療情報の偏りについて解説します。
メディアに対する信頼度は新聞が61.2%だが…ほかの国よりも圧倒的に自国の研究が掲載されやすい日本。報道が「日本」に偏りがちになるワケ【京大大学院准教授が解説】
偏った報道が行われる日本でも「ヘルスリテラシー」を高めるコツ
インパクトファクターが高い「世界の医学ジャーナル・ビッグ4」に数えられる『The Lancet(ランセット)』に2018年、次の邦題の医学論文が掲載されました。わたしはこの論文の共著者です。
「大うつ病性障害の成人の急性期治療における21種類の抗うつ薬の有効性と受容性の比較: システマティックレビューとネットワーク メタ解析※2」
2024年8月29日時点でこの研究の被引用回数は1,191回、オルトメトリクスは5,659回と、かなりの話題になっています。この論文が『ランセット』に掲載された後に、新聞データベースを自分で調べたところ、出版後の1カ月間で世界の新聞に45回も記事として掲載されました。
その反響とともに、「抗うつ薬は有効」「いや、そんな安易に決めるな、抗うつ薬は危険だ」などと世界中の医学界で賛否両論の批評や意見が出され、議論が交わされました。
一方、日本では朝日新聞と京都新聞に小さな記事が掲載されましたが、これはやはり、京都大学や日本人がかかわっていたから記事にしやすかったということであり、議論沸騰にはなりませんでした。
別のさまざまなテーマでも、これと似た規模の研究が世界中で行われています。しかし、それらが日本の新聞の記事になることはほとんどありません。もしこの研究に京都大学がかかわっておらず、オックスフォード大学だけが実施したものであれば、記事になったかどうかもわかりません。
結論として、医療分野の研究報告に関する記事において、日本の新聞と海外の新聞では、まず記者による情報選択の段階からこうした差があることを知っておきましょう。
新聞で国内の機関の斬新な研究報告を読んだ場合でも、海外ではもっと進んでいるのだろうな、どんな研究があるのかな、と考えて興味を持つことは、ヘルスリテラシーを高めることにつながります。
そして、英語の医学情報もネットで簡便に日本語で入手できることを利用し、調べてみるアクションは、さらに知の幅を広げる一歩となるでしょう。
※1 Dumas-Mallet E, Tajika A, et al. Do newspapers preferentially cover biomedical studies involving national scientists? Public Underst Sci. 2019;28(2):191-200.
※2 Cipriani A, Furukawa TA, Tajika A, et al. Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis. The Lancet.2018;391(10128):1357-66.
田近 亜蘭
京都大学大学院
医学研究科健康増進・行動学分野准教授