依拠性
生成AIに対する依拠性の判断は人間に対するものとは、少々異なるものとされています。「考え方」は、従来の裁判例等も参照し、生成AIの利用者が既存著作物を認識していたかどうかを軸に場合分けをして依拠性の判断基準を検討しています。
これは、生成AIを用いない創作活動では、既存のイラストとその創作部分が偶然類似することは稀ですが、生成AIの場合は特別な意識・意図がなくとも、結果として既存の著作物に類似するものが作れてしまうため、生成AI特有の論点として問題になるためです。
AI 利用者が既存著作物を認識していたと認められる場合
この場合、原則として依拠性があったものと認められます。いわゆる「image-to-image」と呼ばれる、AI利用者がアニメのイラスト等を生成AIに読み込ませ、画像を生成する場合等が典型例ですが、そこまで極端でなくても、生成物が既存の著作物と類似しており、AI利用者がその既存著作物の存在を認識していれば、依拠性は推認されるものとされています。
AI 利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、AI 学習用データに当該著作物が含まれない場合
この場合には、AIがただの偶然によって類似性のある作品を生成したに過ぎず、著作権侵害にはなりません。
生成AI 利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI 学習用データに当該著作物が含まれている場合
問題は、生成AIがある著作物を学習しており、生成AIの生成物が当該著作物と類似していたが、生成AIの利用者は当該著作物の存在を認識していなかった場合です。この場合には、客観的にAIの当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、通常、依拠性があったと推認され、AI利用者による著作権侵害になるとされています。
したがって、AIが過去に一度でも既存著作物にアクセスしていた場合には、AI利用者が依拠性を反証する(依拠性があることについて裁判所に疑いを抱かせる)必要があり、それに失敗すれば著作権侵害が肯定されてしまいます。
つまり、AIがより多くの画像を取り込めば取り込むほどAIの性能は上がりますが、その反面、依拠性が認められる既存著作物の範囲が広がり、著作権侵害の危険性は高まることになります。
もっとも、生成AIの利用者が生成AIの学習に用いられた既存著作物の範囲を知ることは困難であり、また、その既存著作物をそもそも知らない場合には当該著作物と類似しているということを判断すること自体が不可能です。
そのような場合には、生成AIの利用者には著作権侵害にかかる故意・過失が認められず、損害賠償や刑事罰の対象にはならず、単に当該生成物の差止請求が認められるにすぎないものと考えられます。
もっとも、不当利得返還請求として、著作物の使用料相当額として合理的に認められる額等の不当利得の返還が認められることはあり得るとされています。