ビジネス会食=信頼関係を構築する場
そもそも、「ビジネス会食」は何を目的に行うものなのでしょうか。取引先など、普段の商談では趣味や嗜好といった人となりを知ることが難しい相手が参加者の場合、最大の目的は「信頼関係の構築」といえます。ビジネス会食は相手のプライベートを知り、より親密な関係を築くことができる絶好の機会というわけです。
では、若手のビジネスパーソンが幹事に指名された場合、具体的には何をすべきなのでしょうか。
まずすべきことは、参加者の「人選」だとA氏はいいます。
相手がどのようなメンバーなのかを上司に尋ね、その相手に見合う社内のメンバーを調整します。大企業の場合、役員クラスはスケジュールが先まで詰まっていることがほとんどなので、調整に時間がかかることを想定して動く必要があるようです。
参加者が確定すれば、次は「場所」の選定。店の場所は取引先が帰りやすい場所や、相手の会社の近隣などを選ぶべきだそう。また、基本的に取引先相手の会食では、招待する側が全額を払うのが一般的なので、相手の役職を見つつ、上司と相談してランクや予算を決めるとよいでしょう。
ここで気をつけるべきなのは、「食事の内容」だとA氏。
「最も役職が上の参加者にアレルギーや嫌いなものがないか、相手方の窓口となっている担当者に聞いて避けておくことが重要です。また、会食に飽きているような社長クラスが相手の場合、よく使われがちな懐石のコースなどは選ばず、同じ和食でも『鰻のコース』を選ぶなど工夫するとよいかもしれません。取り分ける必要がある料理も避けたほうがよく、『個室でコース料理』が最も無難な選択といえるでしょう」
忘れてはいけないのが、初めて利用するお店だった場合。1度は店の“下見”をしておくことが肝心だそう。
「上司に『行ったことないの?』といわれてしまうのはマイナスなので、下見はしておくべきです。知らないお店だと、予約した個室が狭くてすし詰めになってしまうリスクもあります。私も1度、社内の会食で下調べを怠り、席の移動もできないほどぎゅうぎゅう詰めだったことがありました(笑)。今は“怒らない時代”なので大失敗しても怒られることはないと思います。しかし、『気遣いのできない人』と思われてしまうので、しておくに越したことはありません」
当日は、招待する側が10~15分前にはお店に到着しておくことが望ましいとA氏。そして、会食前の重要なポイントとして、A氏は「会食中に相手にいってほしいこと」を上司に伝えることを挙げます。
「ビジネス会食では生々しい仕事の話はしませんが、自分の上司に『絶対にこれだけは言ってください』ということを、ポイントを絞って伝えておくとよいでしょう。たとえば相手に提案中の取引だったり、先日の御礼だったり。私自身、そういったポイントをメモにして伝えていました」
相手の情報は事前に入手
お店に到着したあとは、招待された取引先が上座、招待した側が下座に座ります。乾杯の音頭は、招待した側の上司が行うのが一般的です。
会食中は、上司と相手方の上席の人の会話を聞き、時折会話を振られたら入っていく……という具合に自然体で振る舞うのが望ましいとA氏。このときにおすすめなのが、事前に相手方の最近の趣味などをリサーチしておくという点だそう。
「会食前に、取引先の同じ立場の相手と打ち合わせなどする機会があれば、その際に相手の上司の趣味やどのような話が好きなのか、聞いておくといいですね。それを事前に上司に伝えておくと会話が円滑に進みます。私の場合は、相手の出席者が社長など偉い立場の方であれば、事前に『略歴』をもらうようにしていました。相手の会社のホームページなどに掲載されていればそれを確認できますが、ない場合もありますから。それを会社の上の人間に渡しておくわけです」
会食中、気をつけたいのは、飲みすぎて酔っ払ってしまうこと。また、令和の時代、お酒を無理強いするなどの「ハラスメント」と呼ばれる行為は当然NG。特に社内の人間との会食の場合は、十分気をつけたいところです。
そして会食中のマナーといえば気になるのが、“お酌”の問題。A氏は原則として、お酒は「空いたら注ぐ」ことを推奨します。
「なかには『私は手酌でいいですから』という人もいますが、やはり注ぐほうがいいですね。特にコース料理の場合は能動的に動かないと、相手がお店の人にお酒を注がれるのを待ってしまいますから。また、お酒を注ぐ行為は、相手とのコミュニケーションにもなるという利点もあります」
いよいよ終わりが見えてきたら、支払いです。デザートが運ばれてくるタイミングで席を立ち、支払いを済ませておくとよいでしょう。
会食の翌日は、招待された相手方から御礼のメールが来ることも。もし連絡がなければ自分から、メールで招待を受けていただいた感謝の気持ちを伝えるのがよいでしょう。
先輩から教わりつつ、自分なりのスタイルを作る
ビジネス会食は、相手との距離感を縮めることのできる絶好の機会。マナーのなかには、上の世代にとっては当たり前のことでも、慣れていないビジネスパーソンにとっては疑問に感じることもあるかもしれません。A氏は「まずやってみること」が大事だと強調します。
「ビジネス会食は、自分なりに相手のことを考えてなるべくスマートに進めることが、こういう時代だからこそ加点ポイントになるのではと思います。若い世代の価値観ではどうでもよく思えることでも、シニア層から信用や信頼を得たいのであれば、疑問に感じずに1度やってみるとよいのではないでしょうか。先輩に教わりつつ、自分のスタイルを作ってみてください」
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