米国大統領選挙の投開票が、11月5日に迫っています。この結果によっては世界の経済情勢が大きく変化することから、大きな注目が集まっています。しかし、そもそも米国の大統領選挙が、どうして国内のみならず世界経済に影響するのでしょうか? その理由と具体的な今後の相場展開について、今回は「トランプ氏が勝利した場合」に絞ってみていきましょう。FP Office株式会社の茂野博起FPが解説します。
トランプ氏が大統領に就任→円高に!?…米国大統領選が「為替」に与える影響【お金のプロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

米国次期トップは誰に?…11月に迫る大統領選

11月5日が投開票となる米国大統領選挙の行方について、いま世界中が固唾をのんで見守っています。民主党の現副大統領であるカマラ・ハリスと、4年ぶりに大統領職復帰を目指すドナルド・トランプ……どちらが選出されるかによって、世界経済の流れが一変しかねないからです。どちらが就任してもその影響は真っ先に「為替相場」に現れ、即座に米国内から世界へと波及するでしょう。

 

本稿では、もしも有力候補といわれるトランプ氏が勝利した場合(=「もしトラ」)、為替相場はどのように変化するかについて、その見込みと根拠についてみていきます。

そもそも「為替」とはなにか?

為替相場が変動すると、投資家にとっては投資判断に大きく影響があるほか、輸入品の価格が高騰するなど、私たちの日常生活にも影響があります。

 

では、そもそもこの「為替」とはいったいなにを指すのでしょうか? 日本銀行のホームページによると、下記のように説明されています。(※)

 

為替相場(為替レート)は、外国為替市場において異なる通貨が交換(売買)される際の交換比率です。一般に、わが国で最も頻繁に目にする為替相場は円・ドル相場ですが、そのほかにも様々な通貨の組み合わせに関する相場が存在します。

 

変動相場制においては、為替相場は、誰かが一方的、恣意的に決めるわけではなく、市場における需要と供給のバランスによって決まります。これは、物やサービスの価格が決まるのと同じ原理です。

 

(※)出典:日本銀行「為替相場(為替レート)とは何ですか?」

https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/intl/g17.htm

 

また為替は、「内国為替」と「外国為替」に分類され、内国為替は国内でのお金の動きを指す一方、外国為替は大きな資金が国をまたいで往来し、その影響が貨幣価値の変化をもたらします。

 

たとえば、なにかの要因で大きなお金が日本から米国に流れるとします。この場合、流れた先の米国通貨である米ドルがより多く使われることになり、米ドルの価値が上昇します。これを「円安ドル高」と表現します。

 

前日の為替レートが1ドル=149円だったものが、翌日には1ドル=150円となった場合、1ドル札を日本円に交換するのに前日は149円で済んだのに、150円出さないと交換できなくなったということです。前日より1円多く支払わなくてはなりません。

 

これを、前日比1円の円安ドル高になったと表現します。円がドルより弱くなり、価値が下がったことを意味します。一方、この反対の状況を「円高ドル安」といいます。上記の例でいえば、前日1ドル=150円だったものが1ドル=149円に振れた状態のことです。

 

為替のしくみがわかったところで、では大統領選挙の結果が、為替相場に具体的にどのような影響を与えるのでしょうか? 今回は、トランプ氏が勝利したケースに絞って解説していきます。

トランプ氏勝利の場合、短期的には「円安ドル高」に振れる

為替の変動とは、大きなお金がより魅力的な場所を求め、移動した結果と言い換えられます。

 

もしトランプ氏が米国大統領に返り咲いた場合、多くの人が「お金が日本から米国に流れるに値する魅力や期待感があるか」を判断することになります。この“判断”こそが、非常に重要な視点です。人々からの期待を集めるのか、もしくは失望されるかによって、為替相場が決まるといっても過言ではありません。

 

トランプ氏は「減税政策」を打ち出しており、これを投資家や資本家がどのように評価するか注目が集まっています。これが米国国内の景気失速を恐れる投資家心理に好影響を与え、期待感が膨らめば、短期的には「円安ドル高」に振れる可能性があります。1ドル=150円だったものが、1ドル=155円になるかもしれないということです。

 

かつて日本でも、安倍晋三氏が自民党総裁に就任し、その後第二次安倍政権が誕生しましたが、まだ政策を実行していないにもかかわらず、その期待感から日経平均株価が上昇しました。トランプ氏が地滑り的勝利を収めた場合、米国でも同様の事態が起こる可能性があるのです。

 

ただし、中期的には「円高ドル安」に戻していく可能性も

2016年米国大統領選挙の初当選時、トランプ氏は「法人税率の大幅引き下げ」を公約に掲げ当選しました。この目玉政策が好感され、トランプ氏勝利をきっかけに、世界的に株価が上昇。「トランプ・ラリー」と呼ばれる現象が起こりました。

 

今回の大統領選挙でも、トランプ氏はさまざまな政策を打ち出しています。なかでも特に目を引くのが、「所得税ゼロ政策」です。これは、減税分の補填として輸入品に大きな関税をかけ、その分を穴埋めするという大胆なものです。税負担が減り、その分を消費に回せるようになれば、物価上昇で生活に苦しむ多くの国民の暮らしが豊かになり、「トランプ・ラリー」のような経済波及効果をもたらす可能性があります。

 

そうなれば、トランプ氏就任後の米国への評価が高まり、日本にある大きな資金が米国の株式市場などに大移動するかもしれません。その要因で「円安ドル高」を誘発することもおおいに考えられます。

 

もう1つ、トランプ氏の公約で見逃せないものがあります。それが、「米国第一主義」です。米国において、主要産業が衰退した工業地帯は「ラストベルト」と呼ばれていますが、この地帯には白人労働者が多く住んでいます。

 

トランプ氏は、今回の選挙でも激戦州となっているラストベルトの有権者に対し復興を約束しているほか、自国産業を強くするために輸出に有利となるよう「ドル安」政策を声高に訴えています。

 

“為替だけは読めない”は本当か

今回の米大統領選においては、ハリス氏・トランプ氏どちらの陣営が勝利したとしても、米国社会に遺恨を残すでしょう。国内の分断がさらに加速するとの見方もあり、予断を許しません。

 

為替変動の要因にはさまざまな要因が絡み合うことから、「為替だけは読めない」という人も多くいます。しかしながら、今回見てきたように国際情勢や各国の金融政策などを考察することで、完全には掴み切れないまでも、傾向や見通しは掴むことができます。

 

大統領選後の米国は、“大きなお金が流れる”に値するような魅力的な国になっているでしょうか?……こうした視点でみていくと、為替動向の見立てが少しずつわかってくるかもしれません。


 

茂野 博起

 

【FP Office 株式会社】日本FP協会 CFP®認定者

 

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