「夫が外で働き、妻は家庭を守るべき」と考えている人の2極化

Aさんは、学生を卒業してから、持ち前の運動神経を活かしたいと消防士を志願し、公務員となりました。念願の消防士になってからは、仕事、仕事の毎日。鍛えることも仕事のうちと、休みの日も常に体を鍛えていました。そんなAさんは女性と付き合うこともなく、消防署の先輩から紹介された女性と結婚しました。

Aさんの40年近くにおよぶお勤め。現役最後には消防署長に昇進、現場から遠ざかってからも仕事の苦労は絶えません。いまとなっては、帰宅するとご飯を食べてお風呂に入り寝るという作業だけをしていたように思います。

そんな家庭を振り返ることが少なかった夫には、家を留守にすることを心配し、妻を労う言葉をかける人と、空気のような対応が当たり前と声がけをしなかった人とで、家庭を守ってきた妻がどのように考えていたのかは想像できるでしょう。

なにもいわずとも妻はわかってくれているという時代ではありません。夫の対応次第で、セカンドライフは大きく変わってくるのかもしれません。

セカンドライフの幕開けは妻との温泉旅行を計画

定年間近になると、さすがのAさんも今後の生活が気になるようです。いままで家庭を顧みることなく、仕事に没頭できたのは、妻が家庭をやりくりしてくれたためと感じるようになり、定年後は、妻と一緒に旅行でもと秘かに考えていました。

一方妻はというと、夫と同じ思いを抱いているとは限らず……

ある日の夕方、珍しく早くに帰宅したAさんは、部下に頼んで予約してもらった温泉旅行のチケットを手にしています。スマホを使いこなせないAさんは、部下に頼んで紙のチケットを発行してもらったのでした。照れながらも妻へ話を持ちかけます。すると、妻からは1枚の紙を見せられました。その紙はなんと「離婚届」。「まさかホームドラマでもあるまいし……」と冗談半分に受け取るも、真剣な面持ちの妻を前にAさんはたじろきます「なにに不満があるんだ。まずは話し合おう」。

いままでなにも言わなかった妻が口を開きます「子ども2人も独立し、守るものがなくなりました。約30年、会話の一つもなく冷えた関係の私たちがいまさらなにを話せばいいのでしょうか。いままで家庭を守ってきたので、離婚し財産分与をしてください」。

「浮気もしなかったし、公務員として安定した収入も保ってきたのに! なにを言い出すんだ!」Aさんは声を荒らげます。妻もたまらず言い返し、「いまさらあなたと楽しく旅行なんて行く気にもなれません」と大号泣……。

どうやらAさん夫婦は、「冷めきった関係」と思う妻と「空気のようにわかり合える存在」と思う夫というすれ違いが起きていたようです。離婚するなんて考えてもいなかった夫は、離婚届を破棄します。一緒に温泉旅行チケットも破り捨てました。

定年間近に思いもよらない流れになった夫は、その後も早くに帰宅してもなにもすることがなく、会話もありません。