どんなに潤沢な老後資金を蓄えていても、何が起こるかわからないのが人生。今回、定年後、妻に離婚を切り出された元エリートサラリーマンの事例をもとに、牧野FP事務所の牧野CFPが近年増えている「熟年離婚」で起こりうる老後の貧困について解説します。
とんだ誤算でした…〈退職金3,000万円・年金月28万円〉の67歳・元大手企業常務、“安泰の老後”が突如終焉。家を失い、ボロボロの築古アパートで暮らし始めたワケ【FPの助言】
突然の“離婚宣言”に困惑…離婚後の生活に不安のAさん
Bさんの実家では、同居している兄夫婦が介護状態の90歳を超えた母親の面倒を看ており、Bさんも年に何度か2~3週間ずつ、実家に泊まり込んで母親の介護を手伝っていました。実家に帰ったタイミングで、Bさんは温めていた作戦を実行に移します。まず、Aさんと息子のCさんに、メールを送信しました。
Aさんに送ったのは、“離婚の宣言”です。
メールを読んだAさんは、まさに青天の霹靂でした。内容を要約すると、
・結婚以来、家庭を顧みない生活は限界だから別れたいこと
・財産分与をして貯蓄は折半すること
・自宅はこのまま私(Bさん)が住むので、あなた(Aさん)は出ていくこと
・年金は、私が「3号分割制度」の手続きすること
Aさんは、何度もメールを読み返して、その夜は一睡もできませんでした。
翌朝、そんなAさんに、タイミングを見計らったようにCさんから連絡がありました。AさんはBさんから受け取ったメールの内容を話しました。今後の生活が急に心細くなったAさんにCさんは、親子と親交のあるFPに相談することを勧めたのです。
離婚後のAさんの生活
筆者はAさんから、「もし妻のすべての要求を受け入れ離婚したら、私はどのように生活をすればいいのか、教えてほしい」と相談を受けました。そこで、財産分与で貯蓄額、また3号分割制度で、年金受給額がそれぞれいくら減るか、それに伴い、どこに住めるのか、今後のAさんの生活をシミュレーションしてみました。
<財産分与>
財産分与とは、離婚するときに、結婚してから夫婦が協力して築いた財産を、公平に分け合う制度です。 Bさんは貯蓄は折半して、マンションはBさんが住むことを要求しています。Bさんのほうが取り分が多いですが、お互い納得すれば問題ありません。
現在の貯蓄は約2,500万円で、借入金はありませんので、1,250万円ずつ折半します。
<年金の「3号分割制度」>
日本年金機構「離婚時の年金分割」によると、夫婦が離婚したときは、老齢厚生記録を当事者間で分割にできる「合意分割制度」と「3号分割制度」が制度があります。
Bさん要求の「3号分割制度」では、平成20(2008)年4月1日以後の国民年金第3号被保険者(サラリーマンの妻で専業主婦など)の期間、相手方(Aさん)の厚生年金記録を2分の1ずつ、当事者間で分割ができる制度です。請求は当事者双方の合意は必要なく、離婚等をした日の翌日から2年以内に、国民年金の第3号被保険者であったほうが、年金事務所に出向き、「標準報酬改定請求書」を記載し、提出することで成立します。
年金分割が認められると、Aさんのところにも日本年金機構から「標準報酬改定通知書」が送付され、年金分割の請求をした月の翌月分から、年金額が変更されます。
なお、年金分割は、厚生年金の報酬比例部分に限られ、国民年金の老齢基礎年金等に影響はありません。
そこで、筆者はAさんの同意を得て知り合いの社会保険労務士に確認したところ、「3号分割制度」で年金が分割されると、Aさんの年金受給額は現在の月約23万円からおおよそ月約17万円に、毎月6万円減額されそうです。
今後の生活費は17万円に
Aさんは、今までの毎月の家計支出額を知りませんでした。そこで、離婚後の年金受給額と取崩しができる貯蓄額から、住める場所を探すことにしました。
財産分与後の貯蓄額1,250万円のうち、500万円を介護や看護費用に残しておくと、750万円は取崩すことができます。全額を生活費に取崩して、100歳まで生活すると仮定すると、その額は月に1万2,000円程度です。
よって、今後は毎月18万円の支出で生活することとします。