夫とともに自営業者として働いていた三村さん(仮名)。順調に商売を続けていましたが、夫の急死により生活が一変します。転職や引っ越しを経て、現在は年金とパートの収入でなんとか生活しているという三村さんの生活を例に、貧困生活の実態をみていきましょう。ルポライター増田明利氏の著書『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)より紹介します。

お年玉をくれないおばあちゃんなんて嫌でしょ…年金+パート代で月収15.5万円の68歳女性、“普通”を守るための“ハード”な現実【ルポ】
“普通のこと”をするためにどんどんお金がなくなっていく現実
「パートでもらうお給金はほとんど手を付けないで蓄えに回しています。使わざるを得ないことってあるでしょ、そのときに恥をかかないようにしたいですから」
息子、娘とも都内在住で行き来は頻繁。正月には孫を連れてやって来る。ここで必要なのがお年玉。
「お年玉をくれないおばあちゃんなんて嫌でしょ。わたしだって孫たちにお年玉のひとつもあげられないのは惨めですよ」
息子のところの長女が小学校に入ったときは、奥さんの親がランドセルをプレゼントしてくれたと聞いたので学習机を贈ってやった。
「去年の秋に娘が男の子を出産しましてね。今年の端午の節句に合わせて五月人形を贈っておきました。それぐらいのことはしてあげたいんです」
ホームセンターで売っていた格安品だったが、自身の体面は保たれるし娘も喜んでくれた。これが大事だと思っている。
「親類縁者との交際にだってお金は必要ですよ。出せなかったらみっともないことがある。甥っ子、姪っ子の結婚式にお呼ばれしたら3万円は包まなきゃ格好がつかないでしょ」
弟妹には夫の周年忌で御仏前を頂戴したり、お花代を包んでもらったことがある。自分は厚意を受けているのにお返しのひとつもしなかったら罰が当たる。祝儀、不祝儀、お見舞いなどの付き合いは欠かせないものだと思う。
「近所付き合いでもお金はかかりますね。団地で暮らしていると親しくなった人から、田舎から送ってきたからとリンゴや栗をお裾分けしてもらうことがある。もらいっぱなしじゃ悪いからクッキーやどら焼きを持っていく。これって交際費だと思うのよ、いくらでもないけど」
家にいるときは地味目な衣服でいるが、仕事に行くときやショッピングセンターへ行くとき、病院に通うときは華美でなくとも清潔感のあるようにしている。いい歳をしたおばさんが毛玉だらけのセーターを着ていたり、ヨレヨレで色褪せしたズボンじゃ恥ずかしい。だから、ある程度の被服費は絶対に必要だ。
息子家族、娘家族と会ったら少しは贅沢な食事もしたいし、孫にお願いされたら映画ぐらい連れていってあげたい。
「これって普通のことだと思うのよ。普通のことをするのだってお金が必要、これが現実ですよね」