2度目の訪問で明らかになった、住人の「意外な素顔」

後日、境界立会いをお願いするために、再びあのペイントの家に伺いました。その日は日曜日で、家主の女性の希望によるものでした。

「相変わらず派手なお宅だなあ」とまじまじと外壁を眺めながらインターフォンを押すと、ドアが開き、家主の女性が出てきました。

その姿を見て、私はまた驚いてしまいました。前回と打って変わって、比べものにならないくらい地味な女性がそこにはいたのです。

面食らいながらもご挨拶をすると、「こちらこそ……よろしくお願いします」と、丁寧な、でも消え入るような声で答えられました。

前回訪問したときはハキハキと滑舌のよい受け答えをしてくれたのに、今日はずいぶんおとなしいイメージだなあ、と思いました。まさか別人なのでは? と思わず疑いたくなる変わりようなのです。

説明した境界に納得していただけたので、立会い自体はすぐに終わりました。

このままお礼を言って立ち去ればそれで終わり。この派手なペイントの家に訪れることはもうないはずです。しかし、私は自分の中で湧き上がってしまったいくつかの疑問を、どうしてもそのままにできませんでした。

“あれはね……、絵の先生用の衣装なの”

「あの外壁のペイント、とても見事ですね。あのような絵を描かれたのは何か理由があるのですか?」

「えっ?」

思いがけない質問をされて困惑したのか、女性は口ごもってしまいました。不躾だったかな、と思ったのですが、恥ずかしそうに、小さな声でこう答えてくれました。

「ええと、あれはね……、子どもたちの興味を引くためにしたんです」

「そうだったのですね。確かにとても可愛い絵ですものね」

「まあ、ありがとう。あの絵のおかげで、絵画教室の生徒さんが一気に増えたの」

女性ははにかみながら、嬉しそうに言いました。

もう少し深くお尋ねしてもよいような雰囲気を感じたので、私は思い切って服装についても尋ねてみました。

「今日のお召し物も素敵ですが、先日の鮮やかな色のお洋服とは随分雰囲気が違いますね」

私はあの服装も、絵画教室と何か関係があるとにらんでいたのです。

「あれはね……、絵の先生用の衣装なの」

「衣装?」

「絵の仕事をするときは、あれを着ないとどうも調子が出なくてね」

想像以上の興味深い答えに、私は嬉しくなりました。

心理学を学び、人の心とは本当に奥が深く、学びが尽きないと思うことばかりです。あの真っ赤な服装は、きっとメイクも含めて、いわゆるコスプレのようなものだったのでしょう。

「でも、今日みたいな格好のほうが実は落ち着くのよね」

女性はまた少し恥ずかしそうに笑いました。