金融庁が2019年6月3日に公表した「高齢社会における資産形成・管理」報告書は、当時大きな話題となりました。「老後資金が2,000万円不足する」という言葉に驚いた人も多いでしょう。しかし、この問題についてマスコミが報じなかった“とある事実”こそ、実はこの報告書の肝であった可能性があります。橋本之克氏の著書『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)より、詳しくみていきましょう。
「老後2,000万円問題」とはなんだったのか…マスコミが“スルー”した、金融庁が本当に伝えたかった事実
今後必要となる“3つ”の準備
残念ながら報告書は、マスコミに揚げ足をとられ、野党に政争の具にされ、効力を失いました。
ところが実は、いくつか重要な指摘があったのです。今後、寿命が伸びて、退職金が減少傾向にあり、年金支給額が減ると予測される中で必要な3つの準備です。
① 適切なライフプランを立てること:「大学卒業、新卒採用、結婚・出産、住宅購入、定年、退職金と年金で生活」という古いライフスタイルではなく自分のプランを作る
② 「自助」の充実:望むライフプランや生活水準に合わせて、就労継続の模索、支出の再点検や削減、資産形成と運用など「自助」を充実させる
③ 資産寿命を延ばすこと:以下、3つのライフステージに応じた対応を行う。
現役期は、長期・積立・分散投資による資産形成。リタイア期前後は、退職金の有無もふまえたプラン再検討および、中長期的な資産運用の継続と計画的な取崩し。高齢期は、心身の衰えを見据えたプランの見直しや取引関係の簡素化、自分で行動できなくなった時の備え
これらは、長い人生に備えた準備が必要という真っ当な内容です。
「自助が必要=今の年金政策に問題がある」という誤解が喧伝されましたが、今の高齢者でも年金だけでは生活全般をまかなえません。
厚労省の調査によれば、高齢者世帯の収入における公的年金の比率は66%です。残りは自助でまかなうのが普通です。今後も引き続き、自助の意識を高めて準備をする必要があります。
しかし報告書が効力を失ってしまえば、こういった内容を推進する政策は不可能になってしまうのです。
橋本 之克
マーケティング&ブランディングディレクター/著述家