定年退職時などに受け取る「退職金」。まとまった資金であるため、この使い道が老後生活を豊かなものにするか否かに、大きな影響を及ぼすこととなります。願わくば、後悔しない使い方をしたいものです。今回、定年退職を迎えた佐々木さん(仮名)が、銀行の勧めで退職金の2,500万円で投資を始めた事例をもとに、退職金の「賢い使い方」について、FPの辻本剛士氏が解説します。
銀行員「一括投資が断然オススメです」…言われるままに〈退職金2,500万円〉を投資に回した61歳・小学校教員、わずか5ヵ月で700万円を溶かし、大狼狽「誰か、嘘だと言ってくれ…」【CFPの助言】
一括投資はリスクが高い
今回のケースでは、佐々木さんは退職金2,500万円を一括で投資し、その結果わずか5ヵ月で700万円の資産を失うことになりました。
このような事態に陥った要因は、一括投資をしてしまったことと、損失に耐えられずに売却してしまったこと、ポートフォリオが株式100%で構成されていたことが挙げられます。一括投資が必ずしも問題なわけではありませんが、佐々木さんの場合はリスク許容度を超えた投資をしていたのです。2,500万円を一括投資すると、仮に1%資産価値が下落しただけで、25万円もの損失が生じます。
大金を扱う経験が少ない佐々木さんにとって、このような金額の変動は心理的に大きな負担となりました。その結果、心理的なプレッシャーに耐えかねて投資を売却するに至ったのです。
運用の基本は「長期・分散・積立」で進めていくこと
では、今回の佐々木さんはどのような運用を心掛けるべきだったのでしょうか?
佐々木さんのように運用経験が少ない人は、冒頭でも解説したように、「長期・分散・積立」で運用していくことが大切です。金融庁が公表した資料によると、1989年以降、毎月同じ金額ずつ国内外の株式と債券に分散して積立投資を行い、20年間運用した場合、どのデータをとっても元本割れをしない結果となりました。
また、ポートフォリオも日経平均株価に連動した投資信託のみで構成するのではなく、債券や不動産(REIT)に分散させていれば、損失を抑えられていた可能性もあります。
これらの知識は、投資を得意分野とするファイナンシャルプランナー(FP)に相談すれば、容易に得られます。佐々木さんは銀行員の提案を鵜呑みにして一括投資を実施してしまい、今回の暴落時には自身の判断で売却してしまいました。もし、投資を始める前や大暴落が起きたときに、信頼できるFPに相談していれば、別の結果になっていたかもしれません。
〈参考〉
・共済サポートナビ 小規模企業共済制度のしおり
https://kyosai-web.smrj.go.jp/content/s_200_202311_shiori.pdf
・主な年齢の平均余命
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life23/dl/life23-02.pdf
・金融庁 はじめてみよう!NISA早わかりガイドブック
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/guidebook_202307.pdf
辻本 剛士
ファイナンシャルプランナー