リースや保険の契約、携帯電話の売買など、さまざまな場面で使われている「約款(やっかん)」という書面。小さな文字でびっしりと書かれているため、読み飛ばしてしまうこともあるのではないでしょうか? しかしながら、この約款は、「契約書」同様、非常に重要な意味を持っています。約款の基礎知識について、弁護士の山村暢彦氏が詳しく解説します。
「約款」と「契約書」の違いとは?…知っておくと役立つ「約款」の基礎知識【弁護士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「約款」と「契約書」の違い

まずは、「約款」と「契約書」の違いから見ていきましょう。

 

約款も契約書も、契約の内容を定めたものであるという点は共通しています。契約書は基本的に、1対1で個別に交渉して定められたものが念頭に置かれています。対して約款は、1対不特定多数の人を相手にして取引するため、個別の交渉によって変更することは予定されていません

 

企業と一般消費者との契約の場合、個別交渉をほぼ予定していないため、「約款」が馴染むといえます。たとえば、銀行や保険、運送など、ルールの変更をまったく予定していないものは、約款による取引が一般的です。近年では、利用者の多いweb上のサービスなども、一利用者との関係で契約内容の修正は予定されていないため、「利用規約」という名称で、約款として契約内容の定めを置いているケースも多いようです。

 

民法改正により「約款ルール」が明確化

いずれも契約内容を構成するルールを定めている「契約書」と「約款」ですが、両者の一番大きな違いは、事業者側が一方的にルール変更をできるかどうかという点です。

 

二当事者間で締結する「契約書」の内容変更は、双方の同意があってはじめて可能となりますが、「約款」の内容を変更する場合、一定の基準を守れば、事業者側から一方的に変更することができます。

 

とはいえ、無断で際限なく変更されるのは困るので、民法改正の際に、「定型約款」という制度が新設されました。これにより、片方による契約内容の変更を可能とする一方で、正当な理由のない変更ができないように、規制がかけられることとなりました。

 

「定型約款」という概念は、以下のような内容となります。不特定多数のものを相手にする取引であり、画一的な内容にするのが合理的な場合、この「定型約款」という合意となります。

 

第五款 定型約款

(定型約款の合意)

第五百四十八条の二 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。

二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

 

定型約款の合意があれば、以下の下線部分のような「正当な理由のない」変更がなされないよう、制限がかけられるものの、基本的には、「個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。」ということが、民法改正の際に、明示されました。

 

(定型約款の変更)

第五百四十八条の四 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。

一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。

二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

 

約款作成時の注意点

民法改正の際、相手に一方的に不利な内容の定めや、相手方を害するためのものはそもそも「定型約款として合意しなかったとみなす」という制限がかけられました。要は、合理的な理由がなく、取引を事業側に有利にするような一方的な定めは無効になるということです。

 

(定型約款の合意)

第五百四十八条の二

2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす

 

約款を作成する際の注意点として、上記の制限により無効にならないように配慮しつつ、一方的に事業者に有利にならないように注意して定めることが必要です。

 

また、約款は、おもに事業者対消費者としての契約に利用されますが、事業者に有利な取り決めを行い、消費者を一方的に害するものは、消費者契約法10条により無効とされてしまいます。

 

つまり、定型約款は、あくまで不特定多数との契約上生じる、合理的かつ必要不可欠な変更のためには、相手の同意なく約款を変更できるものの、それが、事業者側の恣意的な利益のために行われるものであった場合、無効にされてしまう取引です。

 

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 

このバランスが非常に難しいため、WEBサービスなどで、利用規約を「定型約款」として機能させたい場合には、一方的に事業者側に有利にならないように配慮しながらも、必要な範囲で合理的に変更がかけられるように、バランス感をもって利用規約を作成する必要があります。外部の弁護士などにチェックしてもらいながら、作成したほうが無難といえます。

 

「約款」は、現代社会において必要な契約規則

画一的に不特定多数との契約が必要な現代社会において、約款は必要な契約規則といえます。銀行や運送、保険、電気、ガスなど、公共性の高い事業である場合は、ほとんど問題はありませんが、WEB上のサービスや個別のフィットネスジムの利用規約などの場合、消費者に一方的に不利な内容でないかをチェックしながら、外部の専門家とも協議し、慎重に作成する必要があります。

 

また、消費者として、あまりにも理不尽な約款に遭遇した場合には、「定型約款」として無効になる可能性もあるため、その際には、消費者センターや、消費者トラブルに強い専門家へ相談することをおすすめします。

 

 

山村暢彦

 

【弁護士法人山村法律事務所】代表弁護士

 

編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン


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