家賃月5万4,000円の公営住宅で妻と2人の子と暮らす49歳の山崎哲郎さん(仮名)。数年前まで建材メーカーの技能職として充実した日々を送っていた彼は、現在の生活を「本当につまらん暮らしです」と吐き捨てます。リストラによって人生が激変した家族の事例から、日本の貧困家庭の実態をみていきましょう。ルポライター増田明利氏の著書『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)より紹介します。
年収380万円の49歳男性「本当につまらん暮らしです」…7年前は沖縄に正月旅行→リストラで給与が激減。妻は不機嫌、娘も息子も“休み返上”で働く〈貧困家庭〉の実態【ルポ】
時給1,100円…臨時出勤もありがたい現実
だから4日間の臨時出勤がありがたかったのも事実だ。
「さっと計算したら1日出ると約1万5,000円ぐらいになる。4日働いたら6万円の増収になるはず。この金額は大きいですよ。だけど元旦の早朝に出勤するのはつらかったよな」
家を出たのは早朝5時10分頃。この時刻だとまだ辺りは薄暗い。寒さもきつく、ニット帽と不織布のマスク、手袋、ダウンジャケットという出で立ちでも風邪をひきそうだった。
「1日やれば先月に受けた虫歯の治療費が回収できる。3日やったら冷蔵庫を買い換えられるぞ。4日皆勤したら家賃分になる。そう思って頑張りましたよ」
6万円を使うのは簡単だが稼ぐのは大変だと思い知らされた気分だ。
「仕事自体は大変なものではありません。むしろ病院食は揚げ物がないから楽な方だった。カロリー制限や塩分制限されている患者さんもいるので盛りつけはグラム単位で慎重にしなくちゃならないけど」
年末年始でも入院生活をしている患者さんにとっては、3度の食事だけが楽しみということもあるので、温かくて美味しいものをという心づもりで働いた。
「自分のところもそうですが、応援出勤した大学病院の管理責任者も人手不足が深刻だとぼやいていました。アルバイトにしろパートさんにしろ簡単に辞めちゃうそうです」
アルバイトもパートも時給は早朝勤務で1,200円。9時から終業までは1,100円。これでは人が来ない。
「慣れればつらいことはないけど、若い人だとコンビニや飲食店の方が時給は高いからね。東京23区は売り手市場みたいだから地味で時給は普通レベルだと見向きもしないのでしょう。正社員募集にも反応がないって話ですから」
そんなわけで休みに入っている現場から駆りだされたわけなのだ。
「わたしは、このご時世だから50歳直前の自分が、もっと見てくれがよく賃金が高い別の仕事なんて就けるわけないと思います。文句を言わずに働くしかないです」