人間は欲望に負けると不幸になる…これは昔から現代まで不変の事実です。お金に執着したばかりに思いもよらぬ悲劇を迎えるという話は後を絶ちません。本記事では、落語家・立川流真打ちの立川談慶氏による著書『落語を知ったら、悩みが消えた』(三笠書房)から一部抜粋し、有名な落語の一席とともに「うまい儲け話の怖さ」について考えてみましょう。
人生をお金なんかに振り回されるな
米津玄師さんが歌にするほど、広く知れ渡った演目であります。多くの落語家が、それぞれのオチなどを工夫していますので、ぜひ聴き比べてみてください(ちなみに私は、一旦消えた後、この男が死神の仲間入りをする「二段オチ」としています)。
この落語が訴えているテーマは、「誰もがお金は欲しいもの。人間はお金に執着しているものとわきまえなさい」ということでしょうか。
だからこそ大切なのは、必要以上に振り回されないことです。そんな欲望に振り回されてばかりいると、この落語の主人公みたいになってしまうのでしょう。
ここでふと思うのが、昨今各種SNSで話題になっている「著名人による詐欺広告」です。被害額が甚大との報道もなされていました。無論、騙すほうが100%悪いに決まっていますが、でもどこかで「私は大丈夫だ」「もしかしたら儲かるかも」のような欲望の萌芽はあったのかもしれません。
得てして犯罪グループは、そういう匂いを嗅ぎつけることに慣れているものです。
だからこそ、古くから現代まで「ラクをして、うまく儲かる話などはないよ」という事実は不変であると踏まえて、このばかばかしい『死神』をエッセンスとして受け止めていくべきなのです。
儲かる儲からないより、楽しいか楽しくないか
そして、ラクして得たお金は、大概あっという間に消えてしまうものです。
前座の頃、一度だけパチンコで大当たりしたことがありますが、儲かった瞬間に消えてなくなったものでした(逆に、事務所から2か月後に振り込まれた前座としてのギャラの5,000円のありがたみを嚙みしめたものでした)。
大体儲かる話なんか、人に勧めるわけなどありません。
儲かる儲からないより、楽しいか楽しくないか。
談志門下に入門して以来、私は人生の基準をそこに置くことにしています。そんな価値観を心に抱くと、「儲かるか儲からないか」だけを主眼としている人たちのことを「人生窮屈そうだな」とバカにできるようになります。
さあ、そうなるとしめたもの。何せ詐欺師サイドは「バカにされること」を極端に嫌がるものですから、向こうから自然と去っていくはずです。
友人に関しても同様、お金に執着していない人間と関係を築けるようになります。
その結果、笑いのセンスも涵養されるに違いありません。つまり、笑いは肉体的にも精神的にも免疫力を上げるばかりか、お金に執着している人からのアプローチも拒否するという効能すらあるのです。さあ、笑いましょう。
立川 談慶
落語家・立川流真打ち